60 ヴォーラとの交流
オルデンがかつてノルデネリエの王族と間違えられた話は、ケニスとカーラを不安にした。
「デンが魔法を使ってオーゾクだと思われたんなら、俺はほんとのオーゾクだから、髪や眼を茶色や紫にしたって誤魔化せないんじゃない?」
「緑と虹色よりはマシだろ」
「そうかな」
ケニスはまだ信じない。
「そうさ。焦茶と紫色はたくさんいるからな。緑と虹色じゃ、遠くから見られただけで、ギィの手下どもに知らせがいくだろ」
「ちょっとはマシってことなのね」
カーラが納得した。
「まあ、その場凌ぎかも知れねぇけどよ」
「捕まる前にそっと逃げるんだね?」
「ケニーは賢いな」
オルデンは目尻を下げて頷く。
「こっちは奴らに気づいて逃げられるのさ」
森の木の葉が色づくころ、ケニスとカーラは眠っている間も髪と瞳を焦茶と紫色のままにしておけるようになった。日常のあれこれに魔法を使わずに過ごす方法も学びながら、子供達は森での生活を続けていた。
「ヴォーラぜんぜん喋らないねぇ」
「ちょっとは元気になったみたいだけど?」
毎日枯草鋼の剣に話しかけるケニスだったが、剣に住む精霊と話すことは出来なかった。
「こいつは、生まれた時から喋んなかったみてぇだからな」
カガリビは、砂漠の精霊から話を聞いていた。そして、ジャイルズから始まって長いことヴォーラとその持ち主を見守って来たのだ。剣を受け継ぐ者がしばらく森に来なくなっていたので、その間カガリビは眠っていたのだが。
カガリビが知る限り、どの持ち主もヴォーラの声を聞いていない。ヴォーラは、姿も現さない精霊だった。
「元気になっても喋んねぇのかぁ」
ケニスはがっかりする。最初に剣がある場所でカガリビの説明を聞いた時、ヴォーラが弱っているから話せないのかと思ったのだ。
「変な子ね」
カーラは不満そうだ。だが、ケニスが触れると白く光る剣を見て、微かに微笑む。
「でも、ケニーのことは好きみたい、案外いい子ね」
「カーラとも仲良くなれるんじゃない?」
「どうかしらね?」
「カーラも触ってみればいいのに」
「今はやめとくわ」
洞窟の小部屋で、無造作な様子で壁に立てかけてある剣に触れるのはケニスだけだ。オルデンも精霊たちも、黙って側で見ている。皆、なんとなく儀式のように感じていたのだ。
明確な継承の手順があるわけではなかった。ヴォーラは自ら持ち手を選ぶと言われているが、どうやって持ち主が決まるのかは定かではない。
「偶然拾ったジャイルズ以外は、普通に手渡しで受け継いだみたいだしな」
カガリビもヴォーラが遣い手を選ぶ方法は知らないようだ。
「ジャイルズはイーリスの旦那さんだったけど、別に智慧の子じゃなかったしなあ」
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続きます




