6 古代精霊文化の都市
寝ぐらにしている洞窟に帰ると、オルデンは壁側にやってきた。
「いいか、ケニー。よく見てろ。いまこの壁の側には誰もいないだろ」
「んっ!ない」
「これが最初の夏だ」
「んー?」
「ほれ、茶色いの置け」
「んっ!」
ケニスは言われるままに暗い赤茶色の小石を置く。
「俺が来たな」
「うん!デン!」
「2度目の夏だ。俺がいる」
「ん」
「お前は1歳になった」
「んー?最初は?」
「最初は数えないんだ」
「えー?へんなの」
「しゅーって森を走って、洞窟に戻ったら、一回だろ?」
「うん」
「それとおんなじだ」
「おんなじ?」
「そうだ。夏がまた来たらもう1年経ったってこった」
「ふうん」
ケニスは小さな眉間に縦皺を寄せて考え込む。オルデンはボロ服に似合わない健康な白い歯を見せてニッと笑う。よく見れば、あちこち破れた服だが清潔だ。深い森の暗闇に潜む泥棒だが、髭も綺麗に剃っている。頭も剃っている。立派な眉だけ焦茶色だ。
「じゃ、緑の置けよ」
「うん!ケニー2しゃいだね?」
ケニスは、解ったというようにぱあっと顔を輝かせた。
「そうだ。凄いぞケニー」
「ケニー、シュゴイ!」
その時2人でひろった平たい小さな石は、今でも寝ぐらに飾ってある。
そして、毎年バイカモの可愛い小花が開く頃、ふたりは決まってこの沢に降りるのだ。一年にひとつ、寝ぐらに飾る小石を探しに。
※
「2人とも、こっちこっちー」
カワナミに急かされて、2人は水底の遺跡を走る。敷石の間には鮮やかな緑色の水草が生えていた。水草や倒れた柱の間を魚がスイスイ泳いでゆく。遺跡はまるでずっとそこにあり続けているかのように、すまして川底に馴染んでいる。
「古代精霊文化の都市だなあ」
オルデンは、四角い柱や崩れた壁に残る模様や文字の跡を見ながら水草を踏んで走る。ケニスはオルデンの呟きを聞きつけて養い親の顔を見上げる。
「解るの?」
「ああ。遺跡にはあちこちで世話んなった」
それを聞いてケニスは虹色の瞳をまん丸にして訊く。
「遺跡、いろんなとこに動いてくの?」
「ははっ、違う遺跡だよ」
オルデンは走りながらケニスの頭をくしゃっと撫でる。
「あちこちにあるの?」
「あるさ。普通は見えねぇし触れねぇけどな」
「ケニーも見るー」
「そうか?じゃあ見に行くか」
「うん!」
「ああ、いいぜ。森もそろそろ飽きたしな」
それを聞いて、カワナミが不満そうに頬を膨らませた。
「オルデン、行っちゃうの?」
「なんだよ。水は繋がってるから何処ででも会えるだろ」
「そうだけど」
「繋がってる?」
ケニスが不思議そうに問う。オルデンはニッと笑った。
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