59 オルデンの過去
カーラは不思議そうに聞いてくる。
「魔法で食べ物を出せば良いのに。なんでしないほうがいいの?」
オルデンは顔をしかめ、カガリビが代わりに答える。
「オルデンは、魔法使って殺されかけたのさ」
カガリビは平気で子供達を怖がらせる。
「カガリビ!チビを脅かすんじゃねぇ」
「話しといたほうがいいだろ。この子らは魔法使いどころか精霊なんだからな」
「ケニーは人間でもあるけどな」
「だいたい、ケニーの血筋が元で死にかけたんだろうが」
カガリビの言葉に、ケニスが土気色になりながら尋ねる。
「えっ?何があったの?デン!」
「ガキん頃にな、精霊に頼んで魚獲って焼いてたら、通りかかったノルデネリエの奴等に殺されかけたのさ」
「無事で良かったわ」
「デン、そしたら危ないのは魔法じゃなくて、精霊の助けじゃないかな?」
「俺たちが魔法使おうとすると、すぐ精霊が寄って来んだろ?」
ケニスは眉を寄せてオルデンを見上げる。
「そいつ、オーゾクだったの?」
「いや、でもちょっとだけ精霊が見えてな」
「精霊と仲良くしてると殺されるの?」
カーラが恐ろしそうに身震いする。
「精霊が周りにあんまり沢山いたから、王族と勘違いされたみてぇだ」
「確かめないでいきなり殺そうとしたのね!酷いわ」
「額の精霊文字が見えるのは直系と中枢の連中ぐらいだからな。文字がねぇことにゃ気づかねぇんだ」
「だいたい、自分のとこの王族殺すなんて変よ」
「何でなの?」
子供たちは呑み込めない顔をした。
「ノルデネリエの精霊王朝じゃ双子が生まれると兄ちゃんを殺すだろ?」
「うん」
「そう言ってたわね」
「その殺されたはずの赤ん坊が偶然生き延びたんだ、と思われちまったんだ」
オルデンはため息をつく。
「ケニーの前の世代にも双子が生まれたみてぇでな」
「へえー」
「災難ね」
「生きていたとは、とか、王子お覚悟を、とか、ノルデネリエの平安のために死んでくれ、とか言われたぜ」
ケニスはヒッと身を縮める。カーラと繋いだ手には力が入った。2人とも、死という言葉に恐怖して涙を浮かべた。
「誤解はとけたの?」
カーラが怖そうにオルデンを見上げる。
「さあな。精霊に助けてもらって、夢中で逃げたんだ」
「逃げられたのね」
「まあな。それからは怖くて魔法が使えなくなっちまってな。食いもんもあんまり手に入らなくなった」
オルデンが魔法を自在に使うからノルデネリエの王族と間違えられたのだろう、と精霊達が教えてくれた。オルデンは精霊たちからも、精霊に近い存在だと思われている。まして人間の目から見れば、とても普通の子供には見えなかったのだ。
「俺は、ノルデネリエ王国の城下町にいたんだけどな。へんな言いがかりつけられたから、どんどん田舎に逃げてった」
人違いで追手がかかった為に、目立つわけにはいかない。魔法が使えないので、生きる為に泥棒となった。食べ物を盗んで生きる子供はどこにでもいた。だが、互いを売って生き残る者も、そこらじゅうにいた。オルデンには、それが耐えられなかった。
「まあ、そんなこんなで森に来たのさ」
お読みくださりありがとうございます
続きます




