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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
58/311

58 銅貨

「取り替えっこ出来るものがあればいいのね?」

「何でも良いわけじゃあねえんだ」

「ややこしいのね」


 カーラは口を尖らせる。ケニスは、少女らしく不満を表すカーラを見て頬を緩めた。オルデンは歪な円形をした金属を親指と人差し指で挟む。


「これが金だ。銅貨ともいうんだぜ。1枚で交換出来るものはあんまりねぇな」

「ふうん」

「デン、ドーカはどこで採れるの?」

「あんまりないのね」


 子供達は、銅貨も森のどこかで収穫出来るのだと思った。魚や草の実や、川底の綺麗な小石のように。



「銅貨はな」


 オルデンは少し困って目を逸らしながら答える。


「子供が寝てる夜にしか採れねぇんだ」


 カガリビが呆れたようにオルデンを横目で見る。


「しかも、滅多にお目にかかれねぇ。たまーに、落ちてるけどな」

「えーっ、森の外では、そんな珍しいものが無いと、何も食べられないの?交換じゃない食べ物はあるの?」

「場所によるなあ。魚や肉を自分で獲ってもいいとこもあるけど、人がたくさん住んでる場所だと銅貨がねぇと難しいぜ」



 国境の森も、本当は勝手に魚や草を採ってはいけない。ジャイルズが狩をしていた時代とは違う。国境の森は、3つの国で管理している。


 この森は、北の魔法国ノルデネリエ、東の武国エステンデルス、西の海洋王国マーレニカが、ひと月ずつ狩猟採集権を交替で持っていた。庶民や旅人が勝手にものを取ったり、住み着いたりしてはいけないのである。


 だが、オルデンはそもそも泥棒なので、そこは解説しない。



「デン、森のもの持って行けないかな?」

「痛むだろ」

「干したらいいよ」

「そうよ。食べ物は持っていけばいいわ」

「森も広いけど、森の外はもっと広いぞ」

「いーっぱい、持っていけばいいよ」

「邪法を破る方法を見つけるまでに、どんだけかかるか分かんねぇしな」

「そしたら、足りなくなっちゃうねぇ」


 カーラはまた口を尖らせる。ケニスはカーラの手をぎゅっと握って慰める。オルデンがケニスを元気付けるとき、いつもそうしてくれるのだ。


「カーラ、頑張ってドーカ探そ」

「ケニーが言うなら手伝うわ」



 オルデンは生きる為に泥棒となった。だがカーラは精霊だし、ケニスはいま腹満ちて健康に育っている。


 ケニスは5歳だが、一族にかけられた邪法を破る為に、ノルデネリエの王族として生きることを選んだ。泥棒生活を強いるわけにはいかない。


 何事もなく森で過ごしていれば、あるいは旅人の服などを荷物から抜く技くらいは教えたかもしれないが。



「オルデン、魔法で何とかならないの?」

「なるにはなるんだが、しねぇほうがいい」


 オルデンはカーラの質問に、苦々しい顔で答える。何やら思い出したくなさそうだ。ケニスは気遣って、オルデンのがっちりした腕に手を伸ばしてヨシヨシする。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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