56 森を出る前に
「まずは、ケニーがこいつを使えるようになんねぇとな」
ヴォーラを顎で示しながらオルデンは言う。ヴォーラは、砂漠の魔女に対抗できる唯一の手段とされているのだ。
「森から出たら、先生探さねぇとダメだな」
オルデンの提案に、カガリビは懐疑的だ。
「森から出て大丈夫か?下手すっとケニーが生きてることバレるぜ?まあ、ヴォーラを知ってる奴も今はいねぇとは思うが」
「んなこと言ったって、俺じゃ剣なんか教えらんねぇし」
「精霊たちに噂を聞きながら、先生探すしかないわね」
カーラもオルデンに同意する。
「ジャイルズが人喰い龍を倒した時には、最初は物として投げつけたんだぜ」
カガリビは尚も森から出ることに難色を示す。
「だいたいケニーはこいつを持ち上げることだって出来ねぇじゃねぇか」
「俺、がんばる」
ケニスは勇ましく眉を怒らせるが、カガリビは止めようと必死だ。
「せめて剣をこっから持ち出せるようになるまでは、森で暮らしたほうがいいんじゃねぇの?」
「それも一理あるな」
オルデンもとうとうカガリビに同意した。
「ノルデネリエの様子も調べてからの方がいいかも知れねぇしな」
オルデンは改めてこれからのことを考える。
「なあ、カガリビ、ジャイルズもシルヴァインも、ほとんど魔法が使えなかったってことだが、ケニーは魔法が得意だよな」
「そうだな。ヴォーラの力を誰よりも引き出せるかもな」
「ほんとっ?」
ケニスは虹色の目をキラキラさせる。
「そうね。あたしもそう思う」
カーラも請け合った。
「ケニーは魔法の練習をする必要はねぇから、しばらくは今まで通りだな」
「えーっ?」
やる気を見せていたケニスはがっかりする。
「あー、でも、森の外のことは色々覚えねぇとな」
オルデンも勉強はしたことがない。だが、旅暮らしが長く様々な地域の習慣を知っていた。
「まず、森の外に出るなら、お前らその色じゃダメだな」
「デン、人間には無い色って言ってたねぇ」
「緑の髪、綺麗なのに」
ケニスとカーラは不満そうだ。
「カーラの髪もとっても綺麗だ」
「眼はお揃いよね」
「うん」
「あたし、ケニーの緑と虹色、好きよ」
「俺もカーラの虹色、好きだな」
オルデンは苦笑いをして、綺麗に剃り上げた頭をつるりと撫でた。
「残念だけど、目立たねぇ茶色がいいと思うぜ」
それを聞くと、ケニスはじっとオルデンの眉毛を見た。
「デン、色変えてるの?」
「いや?俺はずっと焦茶と紫色だよ」
「そっかー、じゃ、俺も焦茶と紫色にする」
「ケニーが焦茶と紫色にするなら、わたしも」
オルデンは頷くと、2人の肩をぽんと叩いた。
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