55 ギィの心臓
「心臓って言ってるけどよ、要するに急所だろ?」
「まあな。そこを燃やすと邪法遣いは死ぬらしいぜ」
「砂漠の魔女の方は分からねぇが、ギィの野郎は胎児に精霊文字を移して乗り移ったんだと思うんだ」
まずは自らの肉体を器にして魔女の邪法を上書きした。それから我が子を器として、我が子に流れる精霊の血を縛り、ギィは命を繋いだ。そうオルデンは考えているのだ。
「酷い奴ね。自分の子供にそんなことするなんて!」
カーラが憤慨する。
「まだお腹にいる間から、そんなことして!」
「その子、どうなっちゃったの?ほんとのその子は死んじゃったの?」
ケニスが不安そうに聞く。
「さてなあ。ケニーの様子を見る限りは、器の持ち主もちゃんと消えずに残ってそうだぜ」
オルデンは安心させるように、静かな声で言った。カガリビは知っていることを伝える。
「ノルデネリエ精霊王朝の王たちは、代々強い魔法使いだっていうが、人格についてはどうだか知らねぇ」
「問題は、いつどんなきっかけでギィの野郎が表に出てくるかだな」
「表に出た時、器本来の魂に何が起きるのか分からねぇしな」
「やっぱり、なるべく早く邪法を破る方法を見つけねぇと」
「そうだな」
オルデンとカガリビの話を怖そうに聞いていたケニスが、おずおずと口を開く。
「ねぇ、弟も助かるかな」
自分が双子の兄なら、弟がいる筈だ。
「弟にも文字があるんでしょ?オーゾクだから」
「邪法のことは知らねぇが、器にすんなら1人なんじゃねぇのかな」
邪法の性質から、双子が生まれても1人だけに乗り移る可能性が高い。
「カガリビ、今までに殺された双子の兄たちに文字はあったのか?」
「そこまではわかんねぇが、邪法が消えてねぇってこたあ、器か死んだら次の器に行くんだろ」
「そうか。赤ん坊は、乗り移る前から器にされてんのか」
「そういうことだろうな」
「じゃあ、王が存命中、子供にも王にも精霊文字がついてんのか?」
「生まれる時から文字があんだから、そりゃそうだな」
オルデンは、ゾッとして目を細める。
「王の子は全員が器の予備か?焔以外の力に適正がある子はどうなるんだ?」
「現れる文字は全部焔らしいぜ。スペアがいつでも用意されてんだな」
「ギィの野郎、抜け目ねぇな」
「ギィの子孫を皆殺しにすりゃ、終わるかもしれねぇけどよ」
「そりゃそうだろうがなあ」
オルデンはツルツルの頭をくるりと撫でて、茶色い眉を寄せた。
「思ったより複雑な術みてぇだなあ」
「弟、助かる?」
オルデンの優しい腕の中で、ケニスの虹色の目は涙に霞んでいる。カーラはケニスの緑色の髪を撫でる。
「救けるさ」
オルデンはきっぱりと言った。
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