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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
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55 ギィの心臓

「心臓って言ってるけどよ、要するに急所だろ?」

「まあな。そこを燃やすと邪法遣いは死ぬらしいぜ」

「砂漠の魔女の方は分からねぇが、ギィの野郎は胎児に精霊文字を移して乗り移ったんだと思うんだ」


 まずは自らの肉体を器にして魔女の邪法を上書きした。それから我が子を器として、我が子に流れる精霊の血を縛り、ギィは命を繋いだ。そうオルデンは考えているのだ。


「酷い奴ね。自分の子供にそんなことするなんて!」


 カーラが憤慨する。


「まだお腹にいる間から、そんなことして!」



「その子、どうなっちゃったの?ほんとのその子は死んじゃったの?」


 ケニスが不安そうに聞く。


「さてなあ。ケニーの様子を見る限りは、器の持ち主もちゃんと消えずに残ってそうだぜ」


 オルデンは安心させるように、静かな声で言った。カガリビは知っていることを伝える。


「ノルデネリエ精霊王朝の王たちは、代々強い魔法使いだっていうが、人格についてはどうだか知らねぇ」

「問題は、いつどんなきっかけでギィの野郎が表に出てくるかだな」

「表に出た時、器本来の魂に何が起きるのか分からねぇしな」

「やっぱり、なるべく早く邪法を破る方法を見つけねぇと」

「そうだな」



 オルデンとカガリビの話を怖そうに聞いていたケニスが、おずおずと口を開く。


「ねぇ、弟も助かるかな」


 自分が双子の兄なら、弟がいる筈だ。


「弟にも文字があるんでしょ?オーゾクだから」

「邪法のことは知らねぇが、器にすんなら1人なんじゃねぇのかな」


 邪法の性質から、双子が生まれても1人だけに乗り移る可能性が高い。



「カガリビ、今までに殺された双子の兄たちに文字はあったのか?」

「そこまではわかんねぇが、邪法が消えてねぇってこたあ、器か死んだら次の器に行くんだろ」

「そうか。赤ん坊は、乗り移る前から器にされてんのか」

「そういうことだろうな」

「じゃあ、王が存命中、子供にも王にも精霊文字がついてんのか?」

「生まれる時から文字があんだから、そりゃそうだな」


 オルデンは、ゾッとして目を細める。


「王の子は全員が器の予備か?焔以外の力に適正がある子はどうなるんだ?」

「現れる文字は全部焔らしいぜ。スペアがいつでも用意されてんだな」

「ギィの野郎、抜け目ねぇな」

「ギィの子孫を皆殺しにすりゃ、終わるかもしれねぇけどよ」

「そりゃそうだろうがなあ」



 オルデンはツルツルの頭をくるりと撫でて、茶色い眉を寄せた。


「思ったより複雑な術みてぇだなあ」

「弟、助かる?」


 オルデンの優しい腕の中で、ケニスの虹色の目は涙に霞んでいる。カーラはケニスの緑色の髪を撫でる。


「救けるさ」


 オルデンはきっぱりと言った。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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