54 幸運を継いだ子供
ノルデネリエの玉座を継ぐ者は、邪法をその肉体と魂に宿して生まれてくるのである。焔を表す精霊文字は、その印だ。カガリビに魔法大国ノルデネリエの始まりを聞くまで、オルデンも知らなかった秘密であった。
ノルデネリエ王族の額に現れる精霊文字が見えるのは、限られた人間だけ。精霊の血が濃い直系王族と、砂漠の秘術を使えるほどに精霊と近い人間のみに見えるのだ。
現在では、祝福として伝えられるこの文字である。肉体を道具として、名前で精霊の血を縛り付ける邪法の印だとは、現王族ですら知らないだろう。
これを利用して、どうやら始祖王ギィは子孫の精神を精霊の名前「焔の御子」で縛り続けているようなのだ。
オルデンはケニーの頭を撫でる。
「俺、おれ、ホノオノミコ、嫌だ!」
「ケニー、心配すんな。必ず邪法を破ってやる」
オルデンは決意に満ちた顔をする。カーラは隣でケニスを見ていたが、ふとヴォーラに視線を戻して、言った。
「ねえ、ケニー。あの剣を鞘から抜いてごらんなさいよ」
「えっ?」
ケニスは涙に濡れた顔を上げる。
「泣くのは試してからでも遅くないわよ」
「カーラの言う通りだな!」
カガリビにも励まされ、ケニスはオルデンの手をしっかり握って、剣にもう一方の手を伸ばす。ヴォーラは5歳児には大きすぎる剣で、背伸びすればやっと柄に手が届くくらいの長さがあった。
ケニスは爪先立ちになって、ジャイルズの遺産である剣に触れる。小さなケニスに剣を抜くことは出来なかった。動かそうにもびくともしない。だが、剣に眠る精霊に呼びかけることは出来た。
「ヴォーラ、そこにいるの?」
まだ涙声だが、ケニスは剣に話しかける。ヴォーラは喋らない精霊だ。剣全体をぼんやりと光らせて答えた。ケニスはパッとオルデンの方へと首を回す。幼い顔が輝いている。
「デン!ねえ、見た?」
オルデンは、ケニーのふにふにした手をぎゅっと握る。
「ああ、見た」
「受け継ぐほうのひとだった!」
ほっとしたケニスは、オルデンに抱きついてわんわん泣いた。
「よかった!よかった!俺、よかった!」
だがオルデンには懸念があった。
「なあ、カガリビ。ギィの心臓ってやつは、この古代精霊文字そのものなんじゃねぇのか?」
「文字が心臓?どういう意味だ?」
代々のノルデネリエ王が始祖と同じ能力を持っている。親子でも違うことがある能力なのに、精霊王家の嫡流は必ず焔の力を宿す。オルデンにはそれが気になるのだ。
「いくら精霊の血を引いてるからって、何代も続けて同じ力を引き継ぐなんてこと、あんのか?」
「なんとも言えねぇ。精霊と人間の子なんて、後にも先にもギィとシルヴァインだけだからなあ」
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