53 継承
「剣を使う人の不幸を消しとばして、切るものの幸運は砕いちまう精霊なんだって」
カガリビがヴォーラについて説明を続ける。
「そいつが遣い手の幸運を吸うのか?」
「精霊がだいぶ弱っちゃって、遣い手の幸運を貰って生きてるんだ」
「なんだよ。本末転倒だな」
「切る相手が砂漠の魔女みたいな凄い奴じゃなければ、死ぬ程にまで幸運を吸い尽くされることはないよ」
オルデンは胡散臭そうにカガリビと枯草剛の剣を交互に見た。ケニスとカーラは、大人しくオルデンの言葉を待っている。
シルヴァインの子孫は、今では1人もいないという。ヴォーラ最後の継承者がこの洞窟にやってきて、カガリビに託した。いつか正しい心の者が引き継ぐように、洞窟にあった空洞を利用して封じたのである。
「そいつは、久々にこの洞窟まで来た継承者でな」
「シルヴァインの子孫も、いつのまにか森に来なくなっていたんだな」
「そうだ」
砂漠の魔女との因縁も、もうエステンデルスでさえ伝わっていなかった。ノルデネリエでは元より真実は歪められていた。そして、2国は互いに始祖の仇であるという漠然とした敵意を抱き続けていた。
「訪ねてくれた継承者に真実を話したら、ノルデネリエ側の子孫に、邪法を破る者が出たら渡してくれって頼まれたのさ」
ケニスは、ぶらぶら近づいてくるカガリビを見た。虹色に光る幼い目には、涙がいっぱいに溜まっていた。
「ケニー?どうした」
「なんだ。どっかぶつけたか?」
カガリビとオルデンは慌てて駆け寄る。
「違う。痛くねぇ」
「そうか。よかった。でもどうした?」
オルデンはしゃがんでケニスの目を覗く。
「俺、ホノオノミコでしょ」
「そうだぜ」
カガリビが答えた。
「カガリビのおはなしに出てくるホノオノミコは、お父さんやお母さんやお兄さんの命を取り上げたんだよね?」
オルデンは息を呑む。
ケニスは人間の家族を知らなかったが、動物の親子は知っている。オルデンという大好きな大人もいる。話を聞いた時には実感が湧かなかったが、ヴォーラを目の前にして突然現実を叩きつけられたのである。
嗚咽を漏らすケニスを、オルデンは黙って抱きしめた。
「俺、ホノオノミコ嫌いだな」
ケニスは口をへの字に曲げて、鼻水を垂らす。慌ててオルデンが拭いてやる。
「俺、この剣には選ばれないほうのひとでしょ?」
焔の文字を受け継ぐのは、砂漠の邪法でギィの魂を受け継ぐ者だ。カガリビの話には、はっきりと語られなかった。だが、夢中で聞いていたケニスには解ってしまったのだ。
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