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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
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51 洞窟の隠し部屋

「俺に名前をつけてくれたのはジャイルズさ」


 語り終えた篝火は、得意そうに火の粉を飛ばす。


「オルデンが住んでる洞窟あんだろ?あすこはな、かつてジャイルズとイーリスが狩の休憩に使った場所なんだぜ」

「えーっ、カガリビ、おじいちゃんだったの!」


 ケニスが眼を丸くする。


「まあな。デロンが住んでたのもここだ」

「しゅっげー」

「そうだったの」

「まだあるぜ?エステンデルスに精霊の血が絶えた時、大事なもんを預かったんだ」

「えーっ」


 これにはオルデンも身を乗り出した。


 食事が済むと、一行は隠れ家の洞窟へと戻る。渡すものがあるというカガリビの後に従って、オルデン、ケニス、カーラが洞窟の奥へと進んでゆく。


「ちょっと冷えんな」

「うん、冷える」

「そうね。ひんやりしてるわ」


 オルデンは、洞窟の奥まで入るのは初めてだ。ケニスも当然同じである。カーラは洞窟自体が知らない場所だ。


 ノルデネリエの歴史を聞いても、皆どことなく遠い物語だと感じている。精霊龍という呼び名が実際には忌むべきものであると知っても、実感がない。


 カーラはイーリスが最後に吐いた火炎から生まれた。だが、引き継いだ知識も記憶も一貫性がないのだ。カーラとイーリスは違う精霊である。


 ケニスにとってカーラは遠い親戚のようなもの。しかし、オルデンとふたりきりで暮らしてきたケニスには、それがどういうものなのか、感覚的には解らない。



「魚や獣みたいに、精霊や人の命を奪うってどういうことなんだろう」


 ケニスは洞窟の下り坂を降りながら、カーラに囁く。


「命が消えたら、会えなくなるわよ」


 カーラはデロンのことを想っていた。


「食べるわけでもないのに」


 ケニスにはよくわからなかった。


「お話に出てきた砂漠の魔女は、精霊の力は食べたみたいだけど、ジャイルズの力は食べてないだろ?」

「そうねえ」

「悪い奴はな、気に入らないってだけで相手の命を取ることもあるんだ」

「わるいやつって?」

「それも話してやんねぇとなぁ」


 オルデンは、厳しい人生を送ってきた。だから、殺される運命の赤子を拾った時、森に隠して幸せにしてやろうと思った。森と精霊のことだけ教えて、旅人が通れば洞窟に隠した。だが、もうそうは言っていられない。



 その時、先に立って浮かんでいたカガリビが止まった。


「ケニー、ここに触ってみなよ」


 カガリビが示す場所は、周囲と全く区別がつかない岩壁である。ケニスはじっと壁を見つめる。


「ここに渡すものがあるの?」


 カーラがカガリビに訊く。


「そうだ。イーリスの炎とジャイルズの幸運があれば扉が開くぜ」

「隠し部屋か」

「そういうこった」

「ケニー、やってみるか?」


お読みくださりありがとうございます

続きます

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