51 洞窟の隠し部屋
「俺に名前をつけてくれたのはジャイルズさ」
語り終えた篝火は、得意そうに火の粉を飛ばす。
「オルデンが住んでる洞窟あんだろ?あすこはな、かつてジャイルズとイーリスが狩の休憩に使った場所なんだぜ」
「えーっ、カガリビ、おじいちゃんだったの!」
ケニスが眼を丸くする。
「まあな。デロンが住んでたのもここだ」
「しゅっげー」
「そうだったの」
「まだあるぜ?エステンデルスに精霊の血が絶えた時、大事なもんを預かったんだ」
「えーっ」
これにはオルデンも身を乗り出した。
食事が済むと、一行は隠れ家の洞窟へと戻る。渡すものがあるというカガリビの後に従って、オルデン、ケニス、カーラが洞窟の奥へと進んでゆく。
「ちょっと冷えんな」
「うん、冷える」
「そうね。ひんやりしてるわ」
オルデンは、洞窟の奥まで入るのは初めてだ。ケニスも当然同じである。カーラは洞窟自体が知らない場所だ。
ノルデネリエの歴史を聞いても、皆どことなく遠い物語だと感じている。精霊龍という呼び名が実際には忌むべきものであると知っても、実感がない。
カーラはイーリスが最後に吐いた火炎から生まれた。だが、引き継いだ知識も記憶も一貫性がないのだ。カーラとイーリスは違う精霊である。
ケニスにとってカーラは遠い親戚のようなもの。しかし、オルデンとふたりきりで暮らしてきたケニスには、それがどういうものなのか、感覚的には解らない。
「魚や獣みたいに、精霊や人の命を奪うってどういうことなんだろう」
ケニスは洞窟の下り坂を降りながら、カーラに囁く。
「命が消えたら、会えなくなるわよ」
カーラはデロンのことを想っていた。
「食べるわけでもないのに」
ケニスにはよくわからなかった。
「お話に出てきた砂漠の魔女は、精霊の力は食べたみたいだけど、ジャイルズの力は食べてないだろ?」
「そうねえ」
「悪い奴はな、気に入らないってだけで相手の命を取ることもあるんだ」
「わるいやつって?」
「それも話してやんねぇとなぁ」
オルデンは、厳しい人生を送ってきた。だから、殺される運命の赤子を拾った時、森に隠して幸せにしてやろうと思った。森と精霊のことだけ教えて、旅人が通れば洞窟に隠した。だが、もうそうは言っていられない。
その時、先に立って浮かんでいたカガリビが止まった。
「ケニー、ここに触ってみなよ」
カガリビが示す場所は、周囲と全く区別がつかない岩壁である。ケニスはじっと壁を見つめる。
「ここに渡すものがあるの?」
カーラがカガリビに訊く。
「そうだ。イーリスの炎とジャイルズの幸運があれば扉が開くぜ」
「隠し部屋か」
「そういうこった」
「ケニー、やってみるか?」
お読みくださりありがとうございます
続きます




