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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第一章 国境の森
50/311

50 遥かな時を超えて

 デロンが造ったランタンに虹色の炎を吐いて火を灯すと、弱りきっていたイーリスはそのまま本体が消えてしまった。


 老デロンはイーリスと精霊達の願いを受け入れた。カーラには、ノルデネリエがエステンデルスを攻めないよう、邪悪な兆しがあれば真実の歴史を伝えられるように教えた。


「さあ、おやすみ。ノルデネリエの導き手、イーリスを精霊龍と呼ぶ者の親友(カーラ)。虹色の瞳を持つ子供達が幸せになる方へ、光を投げて道を照らし出すんだよ。目が覚めた時には大きくなれるぞ」



 デロンはイーリスに同情して、残りの人生をカーラを護るために使った。ランタンを納める象牙の厨子と、それを置く部屋、更には部屋を覆う建物、建物を囲う街のような場所を作り上げた。


 本当は、話の通じるシルヴァインの妻子に詳しく伝えるつもりだった。だが、彼は職人らしく言葉の少ない人間だった。街が出来上がってから、賢い龍パロルを通じて知らせればよいと考えていたのだ。


 そうして、カーラを護る無人の街が完成した時、デロンは眠るように死んでしまった。デロンが死ぬと、彼の死を悼んだ精霊達が動揺してしまい、街に込められた魔法にも影響を与えた。


 カーラはランタンの中で眠り続け、街ごと消えたり現れたりするようになった。デロンが洞窟に残した道具は、森を訪れる善意の魔法使い達が自由に持ち去れるような仕掛けがしてあった。


 これにより、後の世に古代精霊文明と呼ばれる華やかな時代が始まった。




 相討ちとなった兄弟の子供たちが大人になる頃、互いに親の仇として小競り合いをはじめた。エステンデルスも横暴なノルデネリエに対抗するため、いつしか武勲を旨とする国となった。


 賢い龍パロルが生きていた間には、エステンデルス側の子供は真実を聞かされた。それ故まだしも我慢していたが、攻め込まれれば押し返す。パロルの死後は、次第にイーリスの願いが忘れられていった。


 それ以来ずっと睨み合い、真実は歴史の闇へ消えてしまった。それどころか、ノルデネリエでは双子が凶兆とされるようになった。しかも、双子が生まれたら兄を殺す習慣までできた。



「双子の兄シルヴァインは、始祖王ギィの才能を妬んだのだ」

「魔法を使えない残虐な男だった」

「凶暴なシルヴァインが始祖王を襲ったのだ」


 ノルデネリエの民は、そんなふうに歴史を曲げた。精霊の血を引く双子の兄、という存在そのものが呪われた不吉な存在と思われるようになった。


 逃げ足の速い精霊達の情報によれば、ケニスもどうやら双子の兄として生を受けたらしい。ケニスの殺害を求められた人物は、自分で手を下すことが恐ろしくなったのだろう。それで国境の森の奥に捨てたのだと思われる。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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