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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第一章 国境の森
49/311

49 イーリスとデロン

 家族を失ってからイーリスは、1日も休むことなく情報を集めていた。ある日、森の精霊が興奮しながらやってきた。


「海の向こうから、すごい魔法職人がやってきた」

「森にいるよ」


 西の山が大きく崩れてから、麓の漁村から人が来ることは絶えてしまった。人界の状況は、精霊たちの知らせに頼るパロルであった。


「邪法から救う方法も知ってるかしら?」

「わかんないけど、邪法じゃないのに道具の中だけで生きる精霊を生み出すんだよ」

「職人だから、魔法使いとは違うんだけど」

「そんなすごい人なら、邪法に染まった人間も救けられるかも知れないよ」

「救ける道具を作れるかもしれねぇぜ」



 精霊達のもたらした情報に、イーリスは望みをかけた。


「案内してくれる?訪ねてみるわ」

「ここに、じかに話した者はおるのか?」


 気が(はや)るイーリスを押しとどめて、賢い龍が精霊達に問う。


「いるよ!」

「僕、力貸した」


 滝壺の精霊が名乗り出る。


「どんなだったかね?」

「えっとね、僕の時は、暑いから涼しい風が欲しいって言われてね。風を送るパタパタやるやつあるでしょ?あの道具に力を少し入れてあげたの」


 どうやら、力を貸した道具で扇ぐと冷たい霧が発生するようだ。



「ヴォーラみたいな道具?」


 イーリスの質問に、滝壺の精霊が答える。


「似てるけどちょっと違うんだ。貸してあげた力は、ちっちゃい僕みたいになるんだ。喋るし、面白いよ。力を貸してあげるとき、お礼もくれるしね」

「お礼か」

「うん。僕は海の向こうの珍しい輝石を貰ったよ」


 滝壺の精霊は、嬉しそうに小さな青い輝石を見せびらかした。


「あとね。約束してる時間が終わったら、ちっちゃい僕は自然に僕の中に戻るよ」

「ずっとじゃないのね」

「うん。僕は夏だけ毎年力を貸して欲しいって言われた」

「その道具は売っているのか?」

「違う。デロンが使うだけ。あ、その人デロンていうの」

光明(デロン)か」


 賢い龍パロルが眼を瞑って頷いた。


「これは森の叡智の導きかも知れんな」

「そうよ。会ってみるわ」

「気をつけるのだぞ?」

「僕、一緒に行く」


 滝壺の精霊が道案内を申し出る。


「僕、デロンの友達だから!」



 川のそばにある洞窟で、その老人は暮らしていた。


「デロンさん?」

「そうだが、そういうお前さんは?」

「イーリスよ」


 イーリスが事情を説明すると、老魔法職人デロンは眉根を寄せた。


「お前さんも死にかけてるじゃあないか」

「余計なこと気にしないでよ」

「私も細かい作業はもう無理だぞ」

「何だ、出来ないの」

「遠い未来の子ども達に呼びかけることは出来るかもしれないがな」


 こうしてイーリスは、「デロンの籠」に最後の息吹入れてもらい、カーラが生まれた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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