49 イーリスとデロン
家族を失ってからイーリスは、1日も休むことなく情報を集めていた。ある日、森の精霊が興奮しながらやってきた。
「海の向こうから、すごい魔法職人がやってきた」
「森にいるよ」
西の山が大きく崩れてから、麓の漁村から人が来ることは絶えてしまった。人界の状況は、精霊たちの知らせに頼るパロルであった。
「邪法から救う方法も知ってるかしら?」
「わかんないけど、邪法じゃないのに道具の中だけで生きる精霊を生み出すんだよ」
「職人だから、魔法使いとは違うんだけど」
「そんなすごい人なら、邪法に染まった人間も救けられるかも知れないよ」
「救ける道具を作れるかもしれねぇぜ」
精霊達のもたらした情報に、イーリスは望みをかけた。
「案内してくれる?訪ねてみるわ」
「ここに、じかに話した者はおるのか?」
気が迅るイーリスを押しとどめて、賢い龍が精霊達に問う。
「いるよ!」
「僕、力貸した」
滝壺の精霊が名乗り出る。
「どんなだったかね?」
「えっとね、僕の時は、暑いから涼しい風が欲しいって言われてね。風を送るパタパタやるやつあるでしょ?あの道具に力を少し入れてあげたの」
どうやら、力を貸した道具で扇ぐと冷たい霧が発生するようだ。
「ヴォーラみたいな道具?」
イーリスの質問に、滝壺の精霊が答える。
「似てるけどちょっと違うんだ。貸してあげた力は、ちっちゃい僕みたいになるんだ。喋るし、面白いよ。力を貸してあげるとき、お礼もくれるしね」
「お礼か」
「うん。僕は海の向こうの珍しい輝石を貰ったよ」
滝壺の精霊は、嬉しそうに小さな青い輝石を見せびらかした。
「あとね。約束してる時間が終わったら、ちっちゃい僕は自然に僕の中に戻るよ」
「ずっとじゃないのね」
「うん。僕は夏だけ毎年力を貸して欲しいって言われた」
「その道具は売っているのか?」
「違う。デロンが使うだけ。あ、その人デロンていうの」
「光明か」
賢い龍パロルが眼を瞑って頷いた。
「これは森の叡智の導きかも知れんな」
「そうよ。会ってみるわ」
「気をつけるのだぞ?」
「僕、一緒に行く」
滝壺の精霊が道案内を申し出る。
「僕、デロンの友達だから!」
川のそばにある洞窟で、その老人は暮らしていた。
「デロンさん?」
「そうだが、そういうお前さんは?」
「イーリスよ」
イーリスが事情を説明すると、老魔法職人デロンは眉根を寄せた。
「お前さんも死にかけてるじゃあないか」
「余計なこと気にしないでよ」
「私も細かい作業はもう無理だぞ」
「何だ、出来ないの」
「遠い未来の子ども達に呼びかけることは出来るかもしれないがな」
こうしてイーリスは、「デロンの籠」に最後の息吹入れてもらい、カーラが生まれた。
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