48 受け継がれる邪法
シルヴァインは躊躇せず、ギィを腕力で振り払って砂漠の魔女の喉を掻き切る。血煙の中、切り下げる剣で太腿の文字をズタズタに裂いた。
「シルヴァイン!ギィ!」
解放された母イーリスは、虹色の炎で魔女を焼く。薄く笑うギィは、群がる精霊達に炎を放つ。
「君ら、もういらな〜い」
ギィの額にある文字は消えていなかった。
「せいれ、」
ギィがイーリスを縛り直そうと口を開く。シルヴァインはその喉を狙うが、躱されて肩を掠る。すかさず切り下げて、更に腹をついた。
「すっげ、容赦ねぇな。ヒャハハ」
腹を割かれながら不快な笑いをあげるギィは、緑の髪を血塗れの手で掻き上げる。
「あーあ、この身体はもう駄目だな」
ギィが顔を歪めて吐き捨てる。
「勿体ないけど、お兄ちゃん連れてくのやーめた。んじゃそっちは、死んで?」
ギィの瞳がどす黒く濁って光る。
「シル!」
イーリスの護りは間に合わず、シルヴァインはギィの邪法で肉体が四散した。最後まで正気に戻ることなく、ギィは倒れてこと切れた。
「そんな、そんな、そんな」
イーリスが呆然と繰り返す。
「心臓が生きているな」
言葉を取り戻したパロルが、焼け焦げた邪悪な魔女とギィを苦々しく見下ろす。体を捨てて、彼らはどこかに逃げ去ったのだ。
「ギィ」
イーリスは、側にいながらギィが邪法に染まることを防げなかった。
「イーリスよ、仕方のないことだ」
「でも」
「奴らが力を取り戻す前に、心臓のありかを突き止めて燃やさなければ」
「ギィは助からないかしら」
イーリスはやはり諦め切れない。
「あやつは既に己の意志で邪法の道を歩んでおるのだ」
「それでも」
賢い龍は、深いため息をついた。
シルヴァインには妻と生まれたばかりの息子がいた。ギィが姿を消して程なくして、身重だったその妻にも男の子が生まれた。精霊達の噂によれば、ノルデネリエの跡継ぎは、額に焔を表す精霊文字を刻まれてこの世に出てきたということだ。
イーリスは、長く縛られていたこともあり、また夫も息子も失ったので、すっかり弱り果ててしまった。
「でも、このまま消えてしまうのは心残りだわ」
イーリスはどうしても、ギィやその子供を邪法の闇から救い出したかった。シルヴァインの子は、悲しみはあっても健全な環境で育っている。イーリスやパロルとの交流もある。
だがギィの子は違った。ノルデネリエはギィと砂漠の魔女が去っても、邪法遣いに与するギィの妻とその取り巻きが権力を握っていた。子供自身も邪法を帯びて生まれたのだ。
国民は力で支配され、精霊は邪法で縛られている。解放されたのは、シルヴァインとギィの戦いに参加した精霊達だけであった。
「何か方法はないかしら」
イーリスはそればかり考えていた。
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