47 邪法を破る糸口
「パロルーッ」
シルヴァインはヴォーラを振って炎を払い、砂漠の魔女を圧倒する。
「やめろ、シル!命が削られるぞ」
「んなこと言ってられっかよ」
「落ち着くんだ」
パロルは、シルヴァインがギィの邪法で冷静さを失っていることに気づいた。
「シルヴァイン、森の叡智を呼び起こせ」
賢い龍は静かな声で養い子を諭した。イーリスを縛る邪法は、少なからず生みの親パロルにも影響を与える。だが、森が蓄えた久遠の叡智に呼びかけて、龍は邪法から身を守っている。森や山の仲間たちも、邪法に備えていたのだ。
「おじさん余計なこと言わないでね?」
突然目の前に現れたギィを、賢い龍が反射的に見てしまう。眼を瞑った時には手遅れで、パロルは言葉を封じられてしまった。
「パロル、すぐに助ける」
シルヴァインは飛び上がってギィを掴み、投げ飛ばす。ギィは風に乗って空中で体勢を整えた。ギィは虹色の炎を網目状に形造ってシルヴァインの上に落とす。シルヴァインは斜めに斬りあげる動作をして、炎の網を破る。
ギィはすかさず網目の隙間を炎で塞ぎ、今度は膜のようにした。
「残念でしたー」
ギィはシルヴァインを虹色に燃える炎の膜で包む。
「くそッ」
シルヴァインは歯を食いしばって逃れようとした。だが、そのままギィのほうへと引き寄せられてしまう。
「やっと来たねぇ、お兄ちゃん」
ギィは眼を三日月の形に歪めて勝ち誇る。シルヴァインは緑の眉毛を思い切り寄せて睨みつけた。
シルヴァインの目の前に砂漠の魔女がやってきた。
「幸運、幸せを力に」
シルヴァインが枯草鋼の剣に呼びかける。いわば力の栓を全開にする合図だ。パロルの眼が焦燥で見開く。しかし言葉を封じられているので止めることができない。
龍の巨体で今動いたら、ただでさえ緩んでいる足元が崩れてしまう。シルヴァインの側に行くこともできない。
もどかしさで吐いた炎が砂漠の魔女に届く。魔女を庇って前に出たイーリスをすり抜けて、パロルの炎は魔女のマントを焼き捨てた。
「何ッ?」
「一体どうして」
ギィと魔女が憎らしそうに叫ぶ。パロルはニヤリと牙を見せた。賢い龍にはまだ奥の手があるようだ。身内の魔法が効かない術を応用して、身内には効かない炎を吐いたのである。
シルヴァインは、剣の力を解放して炎の束縛から逃れる。そのまま正面にいた魔女の剥き出しの腹を狙う。マントを焼かれて浮かんだまま後ろへ下がる魔女を追って、宝剣ヴォーラの刃が走る。
ギィがシルヴァインの腕を掴み、軌道が逸れて魔女の腰布が切れて落ちる。
「これか!」
魔女の太腿には、ぎっしりと精霊文字が刻まれていた。砂漠の魔女は、自らの肉体を道具として桁外れな邪法を行っていたのだ。この魔女の命を絶つ以外、名前を縛られた精霊達を解放することが出来ない。
双子の弟の息の根を止める覚悟でここまで来たシルヴァインだ。その剣に迷いはなかった。
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