表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第一章 国境の森
47/311

47 邪法を破る糸口

「パロルーッ」


 シルヴァインはヴォーラを振って炎を払い、砂漠の魔女を圧倒する。


「やめろ、シル!命が削られるぞ」

「んなこと言ってられっかよ」

「落ち着くんだ」


 パロルは、シルヴァインがギィの邪法で冷静さを失っていることに気づいた。


「シルヴァイン、森の叡智を呼び起こせ」


 賢い龍は静かな声で養い子を諭した。イーリスを縛る邪法は、少なからず生みの親パロルにも影響を与える。だが、森が蓄えた久遠の叡智に呼びかけて、龍は邪法から身を守っている。森や山の仲間たちも、邪法に備えていたのだ。



「おじさん余計なこと言わないでね?」


 突然目の前に現れたギィを、賢い龍が反射的に見てしまう。眼を瞑った時には手遅れで、パロルは言葉を封じられてしまった。


「パロル、すぐに助ける」


 シルヴァインは飛び上がってギィを掴み、投げ飛ばす。ギィは風に乗って空中で体勢を整えた。ギィは虹色の炎を網目状に形造ってシルヴァインの上に落とす。シルヴァインは斜めに斬りあげる動作をして、炎の網を破る。


 ギィはすかさず網目の隙間を炎で塞ぎ、今度は膜のようにした。


「残念でしたー」


 ギィはシルヴァインを虹色に燃える炎の膜で包む。


「くそッ」


 シルヴァインは歯を食いしばって逃れようとした。だが、そのままギィのほうへと引き寄せられてしまう。


「やっと来たねぇ、お兄ちゃん」


 ギィは眼を三日月の形に歪めて勝ち誇る。シルヴァインは緑の眉毛を思い切り寄せて睨みつけた。



 シルヴァインの目の前に砂漠の魔女がやってきた。


幸運(ヴォーラ)、幸せを力に」


 シルヴァインが枯草鋼の剣に呼びかける。いわば力の栓を全開にする合図だ。パロルの眼が焦燥で見開く。しかし言葉を封じられているので止めることができない。



 龍の巨体で今動いたら、ただでさえ緩んでいる足元が崩れてしまう。シルヴァインの側に行くこともできない。


 もどかしさで吐いた炎が砂漠の魔女に届く。魔女を庇って前に出たイーリスをすり抜けて、パロルの炎は魔女のマントを焼き捨てた。


「何ッ?」

「一体どうして」


 ギィと魔女が憎らしそうに叫ぶ。パロルはニヤリと牙を見せた。賢い龍にはまだ奥の手があるようだ。身内の魔法が効かない術を応用して、身内には効かない炎を吐いたのである。



 シルヴァインは、剣の力を解放して炎の束縛から逃れる。そのまま正面にいた魔女の剥き出しの腹を狙う。マントを焼かれて浮かんだまま後ろへ下がる魔女を追って、宝剣ヴォーラの刃が走る。


 ギィがシルヴァインの腕を掴み、軌道が逸れて魔女の腰布が切れて落ちる。


「これか!」


 魔女の太腿には、ぎっしりと精霊文字が刻まれていた。砂漠の魔女は、自らの肉体を道具として桁外れな邪法を行っていたのだ。この魔女の命を絶つ以外、名前を縛られた精霊達を解放することが出来ない。


 双子の弟の息の根を止める覚悟でここまで来たシルヴァインだ。その剣に迷いはなかった。 


お読みくださりありがとうございます

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ