45 村を守る
シルヴァインの仲間は少ない。精霊が戦線離脱すると魔法への抵抗力が殆どなくなる。シルヴァイン自身が半分精霊ではある。にもかかわらず、シルヴァインには武術の適性のほうが高かった。魔法は僅かしか使えない。
赤ん坊の時に泣き喚いて、砂漠の魔女からの攻撃を防いだ。そのためシルヴァインの声には、防御の力があるかに思われた。だがそれは、微弱な護りの魔法に乗せて、幸運の力が爆発しただけだったようだ。
生き残りの兵士数人が、槍や弓を手にシルヴァインの脇を固める。そして勇敢な農民や牧童数人が、干草フォークや鋤鍬を担いで加勢する。
「北の連中……力の源は輝石か?」
ノルデネリエの魔法使い達は、みな首や腰に輝石を下げていた。それぞれの石が呼び寄せる精霊の力を、相性の良い力を持って生まれた魔法使いたちが最大限に引き出す。
「昔、父さんが交易で牛や羊と取り替えた輝石じゃないか?」
「落ち着け、シル。北にだって輝石はあるだろう」
「北の峡谷にも輝石はあるが、残念ながら東の川ほど良質なものは採れない筈だ」
「砂漠の輝石じゃないのか?」
「いや、砂漠の輝石は東とも北とも見た目が違う」
砂漠の輝石は不透明なのだ。西の山や国境の森で採れる輝石は小粒である。ルフルーヴ城があった近くで採れる輝石は、飛び抜けて上質だった。
「こんなことに使われるなんて」
かつて輝石の採取に参加した農民のひとりが、悔しそうに呟く。
弓の名手がキリリと弦を引き絞る。ひょうと風を切って放たれた矢は、次々に輝石を捉えた。魔法使い達の輝石に亀裂が走る。
北の魔法使い達は、自分の意志でギィの軍勢に参加している。輝石は人間を名前で縛る道具ではない。操られてはいないのだ。輝石が割れて精霊の力を失うものの、攻撃の手は止まない。もともと正気で、多少なりとも魔法が得意な一団なのである。
シルヴァインの仲間はといえば、兵士数人以外は単なる農民や牧童だ。隊を組んでの戦闘訓練も受けていない。人間を傷つける事にも抵抗がある。
相手は躊躇なく首や腹を狙って魔法を投げつけてくる。弓を放つ兵士の腕が、魔法で固めたつららに刺された。農夫が振りかざす鍬は、灼熱の礫に溶かされる。
村の女たちが水を張った桶や鍋を手に走り出してきた。棒や農具を持った男たちの数も増える。村と周辺に住む人々が、火を消し怪我人を手当てし始めた。
エステンデルスの人々は、劣勢になって逃げるどころか、却って決死の抵抗を始めた。シルヴァインはその姿に気を引き締めて、枯草鋼の剣ヴォーラを握りなおす。
「子供や家畜を連れて川のほうへ逃げろ!」
シルヴァインは叫ぶと、幸運の宝剣に力を注ぐ。一振り横に払えば、敵の魔法は逸れて消し飛ぶ。その隙に兵士と農民が魔法使いに飛びかかる。
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