43 シルヴァイン
シルヴァインが物心付く頃になると、砂漠の魔法使いたちと精霊たちはそれぞれの知識を惜しみなく伝えた。
「ヴォーラは恐ろしい剣だ」
「だけど無闇に発動しなきゃ、手入れ要らずの理想的な剣だ」
「砂漠の枯草鋼は万能なんだよ」
「砂漠の魔女を倒せるのは、おそらくこの剣だけだろう」
「うまく使って幸運を喰われないようにな」
「わかった!気をつける」
シルヴァインは皆の教えを次々と自分のものとし、自信に満ちた子供になっていった。また、秘術でも護られ、ギィとイーリスからの魔法が効かなくなった。そのため砂漠の魔女は攻めあぐね、暫く鳴りを潜めていた。
シルヴァインは、優しいながらも肝の据わった男の子だ。年に数回来てくれる砂漠の魔法剣士から、剣術指南も受け始めた。ジャイルズの血を引き天賦の才を持っていたシルヴァインが師匠を超えたのは、僅か数年の後だった。
「そろそろ村に降りて人間の仲間を作るがよい」
「魔法剣は、もう教えることもないしなあ」
「師匠、パロル、ありがとうございました!」
「遊びに来いよ?」
「うん!パロル」
「私もたまにはここを訪れよう」
「師匠、是非ともおいで下さい」
賢い龍と山や砂漠の仲間たちに見送られ、シルヴァイン少年は父の故郷エステンデルス村へと帰って行った。
「ただいま」
シルヴァインが村を去ったのは1歳の時だ。シルヴァインは、父ジャイルズの少年時代によく似ていた。今や在りし日のジャイルズより遥かに逞しい。銀髪琥珀眼ではなく緑の巻き毛と虹色の瞳ではあるが、雰囲気や仕草がそっくりだったのだ。
「お前さん、もしかしてシル坊か?ギィ坊か?」
「シルヴァインだ」
「生きていたのか!」
善良な村人に迷惑がかからないように、修行が終わるまで一度も戻っていなかった。だが、村で唯一精霊と交流できる兵士が家を管理してくれていた。それでシルヴァインは、ジャイルズと暮らした自宅にそのまま住むことが出来た。砂漠の魔女が屋根に空けた大穴も修理されていた。
村で唯一精霊が見える兵士は、山の精霊達と連絡を取り合っている。だから、シルヴァインだけが生き残ったことを知っていた。だが、賢い龍の提案で黙っていたのだ。ジャイルズを慕う者たちが赤子を迎えに来て、砂漠の魔女の襲撃に巻き込まれたら危険だからだ。
「よく生き抜いたなあ」
「龍殺しの英雄の息子が、賢い龍に育てられるとは」
「こいつはたまげた」
赤子の時にシルヴァインの異質さを怪しんだ同年代の村人達も、彼を奇跡の存在として受け入れた。
ジャイルズが北の平原から買い付けてきた牛や羊にも、子供が生まれていた。東の草原で生き残った牛飼いと羊飼いが立派に育て上げている。
エステンデルスは豊かになっていた。
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