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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第一章 国境の森
40/311

40 幸せを力に

 北の谷間は夏に緑を滴らせるが、今は雪がどっさりと積もっている。氷に閉ざされた渓流を遡れば夏でも溶けない雪渓を持つ岩山に至る。


 魔女の姿は、岩山の峡谷に差し掛かってから吹雪が隠していた。ジャイルズを助ける風の精霊の力で、辛うじて吹き荒れる吹雪を散らす。


 しかしジャイルズが雪渓の奥にある峡谷に辿り着いたとき、辺りは不自然な氷の柱で林のようになっていた。氷の柱は、どうやら精霊を閉じ込める檻となっているようだ。


 氷の柱にはそれぞれ精霊文字が刻まれており、さまざまな色に光っている。邪法で縛られた精霊の出す光だ。


「ジャイルズ、気をつけて」

「氷の柱の並び方もなにかの邪法と関係がありそうだよ」

「くそっ、この奥にいるのか」


 林立する氷で出来た柱の上からは、中の様子が見えない。



「風、焔、雷、吹雪、氷、ナイフに槍に弓までいる」


 砂漠から駆けつけてくれた文字の精霊が、氷の柱に刻まれた精霊文字を読み上げる。


「近づくと攻撃されるかも」

文字(リテラ)、そういや精霊文字が読めるんだったな!」

「そうだよ!ジャイルズの剣に書いてあるやつも、たぶん読めるよ」

「砂漠の魔女のそぶりだと、精霊文字ってやつらしいな」

「そうだと思う。こないだはチラッとしか見てないけど」


 殆どの精霊は、自分の力と関係がある精霊文字だけを読める。リテラは文字の精霊なので、どんな文字でも読むことが出来るのだ。助けた時にはあまりにも弱っていたので、読んで貰えなかったのである。



 初めて会った時、砂漠の魔女はジャイルズに、精霊文字も読めないくせに、と言ったのだ。そう言って枯草鋼の剣を持つことを非難したのである。


 つまり、枯草鋼の剣は精霊や精霊文字と関係があると考えるのが自然だ。リテラの見立てでは、剣身に刻まれたものは精霊文字だ。それを読めればこの剣に秘められた力を引き出せる可能性が高い。



「見せて」

「これだ」


 ジャイルズは、剣に刻まれた銘らしきものを示す。文字の音と意味を、リテラはジャイルズの耳に囁く。ジャイルズは顔を引き締めて、ひとつ頷く。それから大きく息を吸い込み、剣を構えて呟いた。


幸運(ヴォーラ)、幸せを力に」


 途端に剣は真っ白く輝き、その光は氷で出来た柱を溶かした。中に閉じ込められていた精霊達が次々に飛び出してくる。皆、ジャイルズの額に祝福を与えるとジャイルズの周りにいる精霊の群れに加わった。



「ジャイルズ、大丈夫?」

「顔色悪い」

「疲れてる」

「精霊の剣を使ったせいか?」


 精霊たちが心配そうに声をかける。ジャイルズは青白く血の気を失いながらも、歯を剥き出して不敵な笑顔を作る。


「慣れてねぇからだろ」


 溶けた柱の向こうには、砂漠の魔女がギィを抱えて立っていた。イーリスは龍の姿で恐ろしい表情を浮かべている。いつも優しい眼は吊り上がり、虹色の炎がその身を取り巻く。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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