37 双子の誕生
イーリスとジャイルズは浅瀬で腰をかがめて、川底を掻き回しながら輝石を選ぶ。
「あんまり持って行っても価値が下がるってパロルが言ってたな」
「そうね。最初は牛のつがいと交換出来るだけ持っていけばいいわ」
「どの石がいいかな」
「赤いのがいいわ」
「火の精霊を呼べる石だな?」
「ええ。北は冬にとっても寒くなるらしいから」
「なるほどなあ。パロルの炎から生まれただけあって、イーリスは賢いなあ」
ジャイルズが感心するとイーリスは、はにかみながらも得意そうに眼を輝かせた。
優しい顔でイーリスを見たジャイルズは、ふと目についた半透明の白い石を拾った。ジャイルズは、イーリスの虹色の髪にそっと石を当てる。
「これ、イーリスに似合うな」
「まあ、ジャイルズの色よ」
精霊が額に触れる時、ジャイルズからは白い光が漏れるのだ。イーリスによれば、ジャイルズは幸運の力を持っているということだ。
「えっ、いや、そんなつもりじゃ」
ジャイルズは慌てて石を手放す。その石が水に落ちる前に、人の姿をしたイーリスが血色のよい手で石を受け止めた。
「ふふっ、嬉しい。いただくわ」
悪戯そうに白い石を見せびらかすイーリスに、ジャイルズは思わず手を伸ばす。
「きゃっ」
イーリスが嬉しそうに声を上げて、ジャイルズの腕の中に収まった。大きく上がった水飛沫が、2人の胸元まで跳ねる。瀬音よりも高鳴る鼓動は、ふたりの気持ちを盛り上げた。
煌めく秋の川風に虹色の巻き毛が流れる。半端に伸びて無造作に掻き上げた銀色の剛毛は、イーリスを見下ろしてパラパラと落ちる。
2人の視線が絡み合い、ふわふわとした気持ちになった。ジャイルズもイーリスも、初めて抱く気持ちである。自然と近づく顔と顔。イーリスは、すっかり力を抜いてジャイルズの腕に寄りかかる。
華奢な背中と虹色の髪に、日焼けて大きな手が添えられる。虹色に輝く柔らかな髪は確かな質量を持って、労働に荒れた指を撫でる。吐息は切なく混じり、そっと静かに唇が重なった。
次の年の真夏、ふたりの家にふわふわの緑の髪と虹色の眼をした双子の男の子が生まれた。人間と精霊、人間と龍、どちらにしてもその子供が生まれたのは、この世で初めてのことだった。子供を産んだイーリスは、普通の人間にも姿が見えるようになった。
しかし、当の2人にとっては、そんなことはどうでも良かった。
「銀も琥珀もどこにも無いわ!」
イーリスは腹立たしそうに言った。
「なんで緑の髪なのよ?」
「お腹にいる時、山にばかり行ってたから、山の霊気をたくさん吸ったんだろ」
「そうね。それはそうかもしれないけど」
ジャイルズは、不満を露わにするイーリスの唇にキスをして宥める。
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