33 精霊の生活
イーリスが、当然のようにエステンデルス村に住むと言い出した。ジャイルズは驚いて思いとどまらせようとする。
「おい、イーリスには山のほうが住みやすいだろ」
「ジャイルズと一緒がいいの!」
精霊は元来気ままな存在である。言い出したら聞かない。ジャイルズの家までついて来た。ジャイルズも別段迷惑なわけでもなく、女性と言っても精霊なので、そのまま家に入れた。村人には見えないので、誰も咎めない。
「家ん中で龍に戻るなよ?家が壊れるからな」
「すり抜けることも出来るから大丈夫よ」
「へえー。便利だな」
「ふふっ、精霊って凄いのよ?」
得意そうで悪戯な笑顔に、ジャイルズはどぎまぎしてしまう。イーリスは赤くなるジャイルズを嬉しそうに見つめた。
「俺、飯食うわ」
ジャイルズは目を逸らし、そそくさと竈のほうへゆく。イーリスはジャイルズが火を起こして湯を沸かす様子を眺めていた。具材を入れてしばらくしてから、ジャイルズが味見をした。
「ほれ」
ジャイルズが味見のスープを差し出す。鍋に僅かな野菜と干し肉を入れただけの食べ物だ。イーリスは好奇心に駆られて口にする。精霊はものを食べなくても生きられる。ジャイルズはそのことを知らなかった。だが、人の姿を取れば、食べることは出来るのだ。そして、味覚もある。
貧しい農民のスープは、さほど美味しくもなかった。しかしジャイルズは村の狩を任されるほどの腕前だ。肉はたっぷり入っている。今日は砂漠の魔女の騒動で獲物が無く、干し肉だけを使っているが、普段は新鮮な肉を食べている。
「ジャイルズはこういうのを食べてるのね」
「肉がたくさんある時は焼いたりもするな」
肉は野菜や魚と交換してエステンデルス村の人々に提供している。村の貯蔵庫にも肉を納めているので、ジャイルズが耕す畑は自分の分だけだ。村人は貯蔵庫には主に野菜を納めている。
肉といろいろ交換してもらうので種類も豊富に食べていて、ジャイルズは健康そのものだ。人喰い龍のせいでルフルーヴ王国が事実上滅んだため、国への税もない。自給自足で楽しく暮らしていた。
「そういえば、精霊って寝るのか?」
ジャイルズは食器を片付けながら、イーリスに尋ねた。
「眠らなくても大丈夫だけど、寝る時もあるわよ」
「へえ」
「力を使い過ぎたら消えちゃうから、そういう時は休眠するわね」
「砂漠の精霊たち、今頃寝てっかな」
魔女に力を吸われた精霊たちは、疲れ果てていた。ジャイルズに名前を貰って多少は元気になったが、それでも弱々しかった。彼らは砂漠に帰って行ったが、中にはよろよろしている精霊もいた。
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