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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第一章 国境の森
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33 精霊の生活

 イーリスが、当然のようにエステンデルス村に住むと言い出した。ジャイルズは驚いて思いとどまらせようとする。


「おい、イーリスには山のほうが住みやすいだろ」

「ジャイルズと一緒がいいの!」


 精霊は元来気ままな存在である。言い出したら聞かない。ジャイルズの家までついて来た。ジャイルズも別段迷惑なわけでもなく、女性と言っても精霊なので、そのまま家に入れた。村人には見えないので、誰も咎めない。



「家ん中で龍に戻るなよ?家が壊れるからな」

「すり抜けることも出来るから大丈夫よ」

「へえー。便利だな」

「ふふっ、精霊って凄いのよ?」


 得意そうで悪戯な笑顔に、ジャイルズはどぎまぎしてしまう。イーリスは赤くなるジャイルズを嬉しそうに見つめた。


「俺、飯食うわ」


 ジャイルズは目を逸らし、そそくさと竈のほうへゆく。イーリスはジャイルズが火を起こして湯を沸かす様子を眺めていた。具材を入れてしばらくしてから、ジャイルズが味見をした。


「ほれ」


 ジャイルズが味見のスープを差し出す。鍋に僅かな野菜と干し肉を入れただけの食べ物だ。イーリスは好奇心に駆られて口にする。精霊はものを食べなくても生きられる。ジャイルズはそのことを知らなかった。だが、人の姿を取れば、食べることは出来るのだ。そして、味覚もある。



 貧しい農民のスープは、さほど美味しくもなかった。しかしジャイルズは村の狩を任されるほどの腕前だ。肉はたっぷり入っている。今日は砂漠の魔女の騒動で獲物が無く、干し肉だけを使っているが、普段は新鮮な肉を食べている。


「ジャイルズはこういうのを食べてるのね」

「肉がたくさんある時は焼いたりもするな」


 肉は野菜や魚と交換してエステンデルス村の人々に提供している。村の貯蔵庫にも肉を納めているので、ジャイルズが耕す畑は自分の分だけだ。村人は貯蔵庫には主に野菜を納めている。


 肉といろいろ交換してもらうので種類も豊富に食べていて、ジャイルズは健康そのものだ。人喰い龍のせいでルフルーヴ王国が事実上滅んだため、国への税もない。自給自足で楽しく暮らしていた。



「そういえば、精霊って寝るのか?」


 ジャイルズは食器を片付けながら、イーリスに尋ねた。


「眠らなくても大丈夫だけど、寝る時もあるわよ」

「へえ」

「力を使い過ぎたら消えちゃうから、そういう時は休眠するわね」

「砂漠の精霊たち、今頃寝てっかな」


 魔女に力を吸われた精霊たちは、疲れ果てていた。ジャイルズに名前を貰って多少は元気になったが、それでも弱々しかった。彼らは砂漠に帰って行ったが、中にはよろよろしている精霊もいた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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