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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第一章 国境の森
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31 精霊の祝福

 砂漠の民が全て精霊を名前で縛る訳ではないらしい。


「ネックレスに文字があったろ?」


 ジャイルズは頷く。


「精霊文字って言うんだぞ」

「あれのついてる道具は、魔法の力を持っているんだ」

「あいつのネックレスは、名前を付けると精霊を縛り付ける邪法が込められてた」


 名前で精霊を僕にするのは、道具の力であるようだ。


「普通に水の湧く水瓶なんかもあるわよ」

「砂漠の族長さんが精霊にお願いして、力を貸してもらう印を決めたんだって」

「それが精霊文字だよ」

「水の印を書けば水の精霊に力を借りたいって意味」

「あいつのネックレスには炎って字もあった」


 それで虹色の炎を纏う、賢い龍の吐いた火から生まれた精霊を縛れたのだ。



「でも、縛りのない名付けは初めて見た」

「へへん、いいだろ?」


 砂漠の精霊達が山や森の精霊を珍しがる。彼等にとって、名前を付けられることは僕として縛り付けられることだった。


 ジャイルズに名前を貰った精霊達は胸を張る。


「力がうんと湧いてくるんだ!」

「ええっ、逆ってことか?」

「違うよ!ジャイルズは(しもべ)じゃない」

「友達だ」

「変な道具だって使わないぞ」


 砂漠の精霊達はそれを聞いて羨ましくなった。


「なあ、ジャイルズ、俺にも名前くれよ」


 砂漠の精霊達がジャイルズに頼む。精霊龍も期待を込めてジャイルズを見た。


「私もパロルみたいな素敵な名前が欲しいな」

(イーリス)でどうだい?」

「わあっ、素敵!流石。ありがとう」


 虹色の龍は炎を瞬かせると、優しい姿の乙女になった。


「声から薄々解ってたけど、イーリスは女なんだな」

「うん」

「パロルは男だったが」

「あら、人間だって女の人から男の子も女の子も生まれるわ」


 ジャイルズは屁理屈のように感じたが、反論するようなことでもないので黙ることにした。その後で、砂漠から来た精霊達みんなにも簡単な名前を付けてやる。


「本当だ!名前を貰ったら元気になった」

「ありがとうジャイルズ」


 ジャイルズは精霊達の嬉しそうな様子を見ると、白い歯を見せて満足げに笑った。



「ジャイルズは素敵に笑うのね」


 イーリスはなよやかな指を伸ばして、ジャイルズの日焼けした額に触れる。すると額から白い光が溢れ出た。


「なんだ?疲れが取れたぞ。ありがとうイーリス」

「ジャイルズには幸運の力があるわ」

「ん?運はいいぜ」

「精霊が額に触れると、その人間が持ってる力を強めるのよ」

「へえ」

「砂漠では精霊の祝福って呼んでる」

「気に入った人間にしかしないよ」

「友達のしるし!」


 言いながら、山と森と砂漠の精霊達は、皆ジャイルズの額に触れた。嬉しそうなジャイルズを、イーリスは頬を染めながら見つめていた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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