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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
308/311

308 フレグマイーロス

 ケニスは家臣団の勧めで、急拵えの櫓に立った。


「長きにわたる我が祖先の邪法に苦しんだ国民のみなさん、祖先に代わり、心よりお詫びを申し上げます」


 まだ即位どころか王族籍も回復前である。だが、その堂々とした姿に、集まった人々はすっかり魅了されてしまった。精霊と親しい者たちは、ケニスがかつて森に捨てられた王子であることも知っている。


 ケニスは被害者なのだ。それでもギィの血筋として国民に真摯な姿を見せている。それが、人民の心に感銘を与えた。


「今ここに、我が精霊王朝の始祖イーリスが望んだ本来の姿、人々が幸せに暮らせる国として、ノルデネリエは新たな国に生まれ変わることを宣言します」


 ワーッと雪原に歓声が上がる。昨日までは泥棒の養い子に過ぎなかったケニスである。美辞麗句は知らない。事実だけを述べる素朴な言葉が、かえって人々の胸を打つ。


「国の名前は、フレグマイーロス。イーリスの炎を継ぐ国です。子孫の幸せを願った精霊、賢い龍パロルから生まれた炎の龍、虹色の炎が、いつまでも私たちを幸せに導いてくれますように」


 再びワーッと歓声が上がる。


「フレグマイーロス!フレグマイーロス!」

「栄あれ、ケニス陛下!」


 作法を無視して、誰かが叫んだ。


「ケニス陛下!ケニス陛下!」


 即位を待たずに、ケニスは国民から新しい王として認められた。


「栄あれ、フレグマイーロス!」

「万歳」

「万歳」


 ケニスは森の捨て子である。しかしその姿から、ノルデネリエ直系王族であることは疑いがない。しかも、恐ろしい圧政から解放してくれた人物なのだ。だから、まだ継承権復活もしていないのに、誰もが迷わず陛下と呼んで敬うのだった。



 人民の支持を得たフレグマイーロスの建国宣言から、数年の時が過ぎた。サルマンはアルムヒートへと戻り、オルデンは森に帰ってしまった。カーラは常にケニスと寄り添っていた。


 邪法との戦いで力を借りたエステンデルスとは、同じ祖先を持つ国同士、友好関係を築いていた。長きにわたるいがみ合いには、終止符が打たれたのである。ギィを救うことは出来なかった。だがやっと、子孫の幸せを求めるイーリスの願いが叶った。


「ケニー、やっと王様になんのね」


 カーラがなんでもないように言った。落成式を終えたばかりの虹炎城(こうえんじょう)の最上階、明るい窓辺でふたりは寄り添っていた。今日はケニスの戴冠式である。


「うん。やっぱりきちんと戴冠したほうが、国民も復興の実感がわくって言うからさ」


 事実上は、建国宣言のその日から国を率いる王となっている。家臣団からも既に信頼されている。素直に国政の指導を受けて、中枢の人々から可愛がられていた。生来の思い切りの良さは、国家再生の局面で良い方向に働いた。お人好しの部分も消えず、精霊に愛される事実も人民の希望となった。


 魔法使いを大切にし、精霊が見えない者とも親しく交際する姿は、新しい精霊国家の始まりを予感させたのだった。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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