304 景気づけには水龍の神酒を
ギィは精霊を無理やり生み出している。氷河や風、城の残骸や空飛ぶ鳥たち、虫に至るまで、ギィの邪法に狙われる。邪悪な魔法を注ぎ込んで作り出した精霊たちに、ケニスやカーラを襲わせる。そればかりか、自分が生み出した精霊を喰らい、さらなる力を得ているのだ。
「グロテスクだわ」
「気持ち悪いな」
カーラは虹色の翼でケニスを庇おうとする。
「カーラ、俺は大丈夫だから!無理しないで」
カーラの炎は強い力でギィに引っ張られ続けた。オルデンの額には脂汗が滲んでいる。カワナミが空に作った輪っかのような水流は、温められて湯気を立てた。
カワナミの水はギィの影響を受けずに3人の周りを流れて囲む。
「カワナミ、どういう仕組みなの?」
「アハハハ!カーラわかんないのぉー?」
「こら、調子にのるでない」
くるくると踊るように空中の水流を巡る灌木の葉から、葉の塊が顔を出す。ウィタだ。ウィタは自分の葉があるところなら、どこへでも渡って行けるのである。
「力を貸すぜ!」
「及ばすながら」
オルデンの炎から、カガリビとアルラハブがヒョイと伸び上がった。水の中には、水鳥の姿を作るオアシスの精霊も見える。
「景気づけだ!受け取れ」
水を巻き上げる風には、逆さまの宮殿に眠る王様の声がした。空中で形を保つカワナミの水流から、水龍がザバンと身を乗り出した。水龍は精霊ではない。オアシスの精霊たちに力を借りて、特別に精霊の道を抜けさせて貰ったのだ。その前肢には汲めども尽きぬ酒が湧く、あの銀色の酒壺がある。
「ええっ?」
ケニスが目を見開く。
「お酒?」
カーラが目を細めた。
「アハハハッ!いいね、いいねー」
カワナミがますます大きな声で笑う。姿は水に溶けているが、声は変わらず元気に響く。
「ありがたく頂戴するぜ!」
オルデンが豪快に笑った。ルイズの姿をしたギィの顔色は、不快で紫に染まってゆく。
「龍神の神酒だ!」
剽軽に片眼を閉じて、水龍は水に潜って消えた。
「あいつ、あんな性格だったか?」
オルデンが毒気を抜かれた顔で呟く。
「大袈裟なことが好きなんだよ」
アルラハブが苦笑いで答えた。思い返せば、ケニスたちと初めて会った時、試練とやらで派手な歓迎を受けたのだった。3人は呆れながらも納得した。
「まてよ?御神酒だって?」
オルデンが真面目な顔に戻る。カーラのランタンがチカチカと火花を振り撒いている。
「カワナミ、酔っ払うなよ!」
オルデンは腕を振った。細い注ぎ口ではなく、酒壺の蓋を外した広口からは、美しい曲線を描いて透明な酒が飛び出す。夢見るような芳香を放ち、水龍の神酒はカワナミの流れへと落ちてゆく。
「えっ?オルデン?アハハハッ!まさかーっ!酔っ払うのはギィだよ!」
「無駄なことを」
上機嫌なカワナミの言葉に、ギィが落ち着き払った様子を見せる。
「さてねー?どうだかっ!アハハハハハハ」
笑い声と共に、カワナミの水は白と虹色のマーブル模様を作り上げた。
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