300 虹色に燃える龍
「オルデンを待たないでいいのか?」
サルマンの言葉に、ケニスは少しだけ考えるそぶりをみせた。
「カワナミの様子だと、デンはもう動けそうだね」
「カワナミは笑ってばかりだから、オルデンがどうなってるのか解らないわよ」
「けど、あいつはデンが大好きだろ?」
「そうね」
「まだ動けないなら、森の洞窟から離れたところ迄は来ないんじゃないかなあ」
「一理あるわね」
「デンが出発の目処を立てて、俺たちの場所を知りたがったんだと思うよ」
一連のやり取りを聞いて、サルマンは不思議そうな顔をした。
「だったら余計、待つ方がいいんじゃないか?助けた精霊が困るだろ?」
いつも、邪法から解放した精霊たちはオルデンに力をもらって回復する。ギィに直接仕掛ければ、本人だけではなくノルデネリエ中の精霊たちを集めて使おうとするだろう。助けた精霊が何度も狙われてはやりにくい。
「いいわ、それは何とかする」
「カーラが?」
サルマンは意外に思う。
「近くにいたら危なそうだけど」
ケニスはカーラの細い肩を抱き寄せた。カーラは安心させるように微笑む。
「ふふ、心配ないわよ。ケニーの幸運がついてるでしょ」
「そりゃ全力で分けるけど」
「あら、全力じゃダメよ。少しでいいのよ」
「危ないから」
「後の幸運はギィを滅ぼすのに使わなくちゃ」
「でも、カーラを守りたいんだ」
カーラは伸び上がってケニスに口付けをする。城を正面に見た町の空に、悪戯な含み笑いが響く。
「くふっ」
「カーラ、誤魔化さないでよ」
「くくくっ」
カーラはカワナミの真似をしてくるりと斜めに回転した。少女の巻毛は虹色に広がり、やがて炎の渦となる。
「素敵だ」
ケニスが陶然としてカーラの虹色を愛でる。
「逃れた精霊は私がオルデンの方へ吹き飛ばすの!」
虹色に燃える炎は翼を持つ龍の姿を模って、ノルデネリエの空を覆った。
「ケニーはギィにかかり切りで構わないのよ」
炎の龍からカーラの落ち着き払った声がする。
「オルデンが道々の邪法使いを始末するでしょ」
これにはサルマンも同意した。
「動けるようになったなら、後ろはオルデンに任せておけるな。残党は、幾日かはかかっても精霊の友騎士団が掃討するだろうし」
上空の異変を察知したのか、邪法に操られた精霊や城の魔法使いたちが窓や物陰からケニスたちを攻撃し始めた。カーラは早速、邪法の道具を火の粉で壊す。サルマンも矢をつがえた。
「じゃあ、いいね?サルマンはそのまま援護を頼める?」
「勿論だ」
いつもはオルデンが風や幸運を矢に乗せてくれる。だが、今この場にオルデンはいない。ケニスが一人二役を引き受ける。
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