30 精霊龍を救う
体をすっぽりと包み隠していたマントをとられても、砂漠の魔女は攻撃の手を止めない。細い褐色の腕を掲げたり、金の腕輪を幾重にも巻きつけた手首を傾けたりして魔法を放つ。
しかし山と森の精霊達も負けてはいない。ある者は水を、ある者は風を放って魔法を退ける。精霊達は枝をかい潜って飛び巡る。魔女は大勢の精霊達が仕掛ける波状攻撃に翻弄される。
口を覆う布も精霊達に取られると、凄みのある美女が現れた。真っ直ぐな黒髪を森の風に靡かせて、魔女は憎らしそうに顔を歪める。
光を吸われている砂漠の精霊達は、山と森の精霊を好きにさせていた。名前で縛られているので、本当ならば魔女を守る役目なのだが。彼らはそれほど弱りきっていたのである。
「ジャイルズ!いまだ!」
「ネックレスを壊して!」
砂漠の魔女は、黒い球が連なったネックレスを下げていた。球にはひとつひとつ、ジャイルズの知らない印がついていた。ジャイルズは精霊の指示を聞くと、枯れ葉を蹴って一気に砂漠の魔女との距離を詰める。
「させるか!」
魔女は声に破壊の力を込める。精霊達が振り払われた。ある者は木にぶつかり、ある者は地面に叩きつけられる。
「大丈夫かっ」
ジャイルズが気を取られる。だが、彼らは山と森から生まれた精霊達である。山や森にあるものにぶつかってもなんともなかった。
「平気!」
「気にしないで!」
「早くネックレスを!」
「分かった!」
ジャイルズは器用に剣の切っ先を操り、ネックレスを引きちぎる。黒い球がバラけて宙を舞う。
「球を壊せッ!」
「僕らは触れないんだ」
ジャイルズは飛び上がって剣を振るう。横様に薙ぎ払うと、いくつかの球が壊れた。剣身を返して弧を描き、樹の幹を蹴り身を躍らせ、残りの球を追いかける。
「貴様、許さんぞ」
砂漠の魔女が怨嗟の声を上げた。しかし、精霊達を振り払った時には、ネックレスの黒い球は全て砕け散っていた。
「ありがとうジャイルズ!」
精霊龍が美しく澄んだ声で、ジャイルズの名を呼ぶ。同時に虹色の炎を纏う翼で、砂漠の魔女を強く打つ。魔女は驚愕の表情を浮かべたまま、虹色に燃える炎の渦に巻かれて消えた。
「おい、死んだのか?」
ジャイルズは青褪めて精霊龍に訊く。
「残念ながら、砂漠に送り返しただけ」
「残念って、怖ぇな」
ジャイルズは苦笑する。しかし精霊龍は厳しい表情で言った。
「別の道具を手に入れて、またやってくるかもしれない」
「砂漠の民って奴ぁ、厄介だな」
「砂漠の民でも、あいつの使う邪法を操る奴ばかりじゃないよ」
かろうじて息のあった砂漠の精霊が、砂漠の民を擁護する。
お読みくださりありがとうございます
続きます




