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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
297/311

297 氷雪の魔岩城を目指す

「バリー、コンラッド!」


 ケニスは手を振って足を速めた。


「お手柄でしたな」

「あとは悪霊ギィを残すのみ」


 2人の言葉に、カーラが驚く。


「えっ、この人たちでギィに挑むの?」

「いやまさか。魔女が片付いたとの報せを受けて、士気が鼓舞されました。それで露払いと洒落込んで、雑魚を掃除しに行きますのです」

「我らは新設の魔法騎兵団でしてな。以前ちょっとお話し致しましたが。精霊の友騎士団と申しますのですが、さほど大きな魔法は使えないのです。とてもギィには敵わない」



 国境の森をゆく精霊の友騎士団は、各人精霊をお供に好きな武器を携えている。バリーとコンラッドは、以前と変わらぬ槍である。


「ギィの城には邪法使いがたくさんいるそうよ」

「なに、敵の牙城といえども、雑魚は雑魚でありましょうぞ」

「城は、魔岩と呼ばれる魔法を宿した堅牢な岩で築かれたと聞きまする」

「そんなとこに、どうやって入り込むのよ」

「いかに頑丈な城とても、人の弱さに備えは出来ますまい」

「城下の貧民、魔法を持たない下働きは無防備ですぞ」

「ダメだよ!虐げられた民を排除するのは」


 ケニスが青褪める。



「ご安心召されよケニス殿。事情を話して陽動を頼むつもりです」

「さすれば門番や物見の雑兵に隙が出来るでありましょう」

「うーん、大丈夫かなあ」

「うまく行くかしら?精霊や魔法で見張っていると思うわよ?」


 カーラは成功への疑いを拭えない。


「氷雪の奥地に聳える悪名高い城ですが、下っ端なら我らでも相手が出来ます」

「ケニス殿たちに倣って、邪法の道具を壊す訓練もしておりますしね」

「邪法使いと合間見えたのは、ルフルーヴ川の役が初めてではありません」

「及ばすながらの助太刀ではありますが」

「危なそうならすぐに逃げてよ」


 ケニスは2人と友達なので、心配でたまらない。魔女の心臓が消し去られたことは、精霊を使って監視しているギィにも筒抜けだろう。ケニスたちがノルデネリエの城へと攻め寄せることも予想の内に違いない。襲撃への備えは抜かりないと思われる。これまでの小競り合いとは違うのだ。


「退き際は心得ておりまするぞ」

「わが精霊の友騎士団を率いる団長殿は、エステンデルス騎士団長を兼任なされる名高いお方です」

「団長殿は、密かに精霊と心を通わせて来たお方」

「魔法の技にも長けております」


 団長という立場で能力を隠し通し、魔法使い差別の時代を行き抜いた騎士だ。その実力は計り知れない。心強い味方が出来たことを知り、ケニスは少しほっとした。



 そこへ、早駆けの音が聞こえてきた。


「団長、邪法使いです。精霊は注意してください」


 小柄な斥候兵が戻るなり、団長の耳元へ小声で告げた。

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