296 木漏れ陽を反す甲冑
翌朝ケニスたちはオルデンを洞窟に残し、ヴァレリアを見送った。オルデンは一晩でだいぶ回復していたが、無理せず治療に専念している。
「じゃあデン、行ってくるよ」
「無理しちゃダメよ」
「なに、すぐに追いつく」
サルマンは黙っていた。
「オルデンがいなくても大丈夫だろー?」
カワナミが騒がしく飛びまわる。
「うるさい。怪我人なんだぞ」
カガリビが焚き火から顔を出して怒る。
「信用しねぇ訳じゃあねえが、ついててやりてぇからな」
オルデンは照れくさそうに、剃り上げた頭をつるりと撫でる。ケニスはにこりと笑って、背中を向けた。
森の中ほどまでゆくと、蹄の音が行手に聞こえた。それなりの騎馬集団がかなり先にいるようだ。金属音も微かに聞こえる。武装しているのだろう。森にいると時折そんな集団が通る。
「普通の武装兵みたいだけど、大丈夫かしらね?」
「小競り合いはいつものことだって、バリーとコンラッドが言ってたよね」
「あの人たちルフルーヴ川でも、私たちがいなかったら全滅してたかも知れないわよ」
「無策では無いんだろうけどね」
「魔法の気配はちょっとだけじゃないの」
カーラが犬死にを予見して顔を顰める。
「精霊や魔法は却って悪用されちまうんだろ?」
サルマンが珍しく口を挟んだ。
「そりゃそうだけど」
「俺みてぇな魔法の影響がない奴がいねぇと、全員が使い物になんなくなるぜ?」
「むしろノルデネリエの邪法使い相手には、普通の兵士が有利ってことかしら?」
「親玉相手どるにゃあ、そうはいかねぇだろうがな」
「精霊の助けもなく、普通の武器や防具だけじゃあ強い魔法に対抗出来ないわよ?」
カーラはまだ信じていないようだ。サルマンはあくまで、強力な魔法使いと精霊が集まったチームにいるメンバーの1人だ。言うなれば、優秀なサポートメンバーである。
「魔女の心臓があった村の連中を見ただろ?」
「魔法が使えなくなったら、何もできなくなったね」
「確かにそうかもしれないけど」
カーラが不満を隠そうともしないまま、一行は音に近づいて行った。騎馬隊は、やはりノルデネリエを目指しての行軍らしい。
「おや、みなさん」
「砂漠の魔女をついに葬り去ったと伺いましたぞ」
騎兵団に追いつくと、見知った顔が話しかけてくる。痩せた老兵バリーと、背は高くないが体格はがっしりと安定感のある中年コンラッドだ。声に釣られて騎馬の小集団が一斉に振り向いた。木漏れ日でまだら模様になった銀色の甲冑が、長閑な森に冷たい光を反射している。
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