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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
296/311

296 木漏れ陽を反す甲冑

 翌朝ケニスたちはオルデンを洞窟に残し、ヴァレリアを見送った。オルデンは一晩でだいぶ回復していたが、無理せず治療に専念している。


「じゃあデン、行ってくるよ」

「無理しちゃダメよ」

「なに、すぐに追いつく」


 サルマンは黙っていた。


「オルデンがいなくても大丈夫だろー?」


 カワナミが騒がしく飛びまわる。


「うるさい。怪我人なんだぞ」


 カガリビが焚き火から顔を出して怒る。


「信用しねぇ訳じゃあねえが、ついててやりてぇからな」


 オルデンは照れくさそうに、剃り上げた頭をつるりと撫でる。ケニスはにこりと笑って、背中を向けた。



 森の中ほどまでゆくと、蹄の音が行手に聞こえた。それなりの騎馬集団がかなり先にいるようだ。金属音も微かに聞こえる。武装しているのだろう。森にいると時折そんな集団が通る。


「普通の武装兵みたいだけど、大丈夫かしらね?」

「小競り合いはいつものことだって、バリーとコンラッドが言ってたよね」

「あの人たちルフルーヴ川でも、私たちがいなかったら全滅してたかも知れないわよ」

「無策では無いんだろうけどね」

「魔法の気配はちょっとだけじゃないの」


 カーラが犬死にを予見して顔を顰める。


「精霊や魔法は却って悪用されちまうんだろ?」


 サルマンが珍しく口を挟んだ。


「そりゃそうだけど」

「俺みてぇな魔法の影響がない奴がいねぇと、全員が使い物になんなくなるぜ?」

「むしろノルデネリエの邪法使い相手には、普通の兵士が有利ってことかしら?」

「親玉相手どるにゃあ、そうはいかねぇだろうがな」

「精霊の助けもなく、普通の武器や防具だけじゃあ強い魔法に対抗出来ないわよ?」


 カーラはまだ信じていないようだ。サルマンはあくまで、強力な魔法使いと精霊が集まったチームにいるメンバーの1人だ。言うなれば、優秀なサポートメンバーである。


「魔女の心臓があった村の連中を見ただろ?」

「魔法が使えなくなったら、何もできなくなったね」

「確かにそうかもしれないけど」



 カーラが不満を隠そうともしないまま、一行は音に近づいて行った。騎馬隊は、やはりノルデネリエを目指しての行軍らしい。


「おや、みなさん」

「砂漠の魔女をついに葬り去ったと伺いましたぞ」


 騎兵団に追いつくと、見知った顔が話しかけてくる。痩せた老兵バリーと、背は高くないが体格はがっしりと安定感のある中年コンラッドだ。声に釣られて騎馬の小集団が一斉に振り向いた。木漏れ日でまだら模様になった銀色の甲冑が、長閑な森に冷たい光を反射している。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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