表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
292/311

292 負傷

 オルデンは、縦抱きに抱え直してヴァレリアの背中を押さえる。ヴァレリアは目を吊り上げて抗議した。


「家を通り過ぎちゃったじゃない!」

(わり)ぃ、ヴァレリアんちに寄ってる暇がねぇ」


 オルデンは真剣に告げる。


「今帰ったって、村は魔女の残党とヴァレリアの仲間たちが激しく争ってると思うわ」

「洞窟にしばらく居なよ」

「ケニーの言う通りにしなさいな」

「そうだな、森の洞窟で休んでったらいい」

「そんなに危ない?黒い人たち、動かないじゃない?」


 ヴァレリアは納得できずに帰りたがった。



「気持ちはわかるよ、でも」


 ケニスが何かを言いかけたとき、砂に散らばる黒い塊から、赤黒いモヤが一斉に立ち上った。オルデンは咄嗟に水の壁を広げて皆を包んだ。


「ぐっ」

「えっ?デン?」


 オルデンの顔が一瞬だけ歪む。両脚の付け根にモヤがまとわりついていた。だが、オルデンにくっついていた精霊たちが次々と額に触ると、金色の光が溢れ出る。光はモヤを掻き消してしまった。


「脚、デン、脚が動いてないよ!」

「ケニー、集中してっ」

「そうだ、俺は大丈夫だ」

「そうよ、オルデンよ?呪いっぽいモヤだってすぐに消えたじゃないの」

「デン」


 焦燥の雰囲気を醸し出すケニスに、オルデンは余裕の笑顔を見せた。


「森に戻りゃあ、薬草の精霊だっているんだぜ。時間をかけりゃ、大抵の傷は治る」

「ケニー、忘れたの?あのラヒムってやつだって、死にかけてたのに治ったじゃない」

「あいつは、精霊を無理に使ってた」

「ゆっくり治すさ。このくらい、たいしてかかんねぇしな」


 オルデンの脚は動かないが、風がそのまま森へと運んでくれた。森の縁では精霊たちが待ち構えていた。



 弱まった邪法の力に勢いを得て、精霊たちが出迎えたのだ。魔女の手下は砂漠に、ギィの仲間はノルデネリエに、それぞれ集結している。精霊たちは、負傷したオルデンを安心して森に迎え入れたのであった。



「ねえ、心臓、真っ黒ね?」


 砂漠の風が心臓の灰を流して、砂に混ぜようとしていた。これは自然に吹く風だ。呪いとも精霊とも関係がない。魔女の信奉者の仕業でもなかった。


「ダメよ、ケニー!灰を散らさないで」


 カーラの炎が虹色にゆらめく。ケニスは咄嗟に地上へと降りた。魔法の風を使って、飛ばされてゆく心臓の燃え滓を集めるとポケットが白く光って膨らんだ。


 皆の視線は思わずポケットに集まった。


「ウィタ?」

「灌木から離れられるの?」


 ポケットから顔を出したのは、村の水場に生えていた灌木の精霊ウィタである。ウィタは葉っぱで出来た体に、幸運を浴びた葉を挟んでいた。



お読みくださりありがとうございます

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ