29 ジャイルズと精霊
集まった山の精霊達に力を借りて、ジャイルズは急ぎ魔女を追う。
「小賢しい。付け焼き刃で砂漠の民に敵うと思うか」
「龍の精霊を解放しろ!」
ジャイルズは、一度に多くの精霊と交流した為に精霊と心を通わせることが出来るようになっていた。元々は精霊と関わりなく暮らしてきた、平凡な農民である。賢い龍と仲良くなってからも、稀に龍の友達である精霊が遊びに来て話をする程度だ。
ルフルーヴ王国には魔法がなく、ジャイルズにとって砂漠の魔女が初めて見る魔法使いだった。
「勝手なことを言うな。精霊龍は私の僕だ」
「精霊龍はそう思ってないッ」
ジャイルズの叫びに、精霊龍が虹色の瞳を煌めかせた。ジャイルズはその気配を見逃さず、精霊龍を励ました。
「今助けてやるからな!」
山の精霊達も必死で精霊龍に呼びかける。騒がしさに好奇心を持ってやってきた森の精霊達も、ジャイルズに味方し始めた。魔女の体に向かって、精霊龍や引き連れていた砂漠の精霊達から光が注がれる。
光を出す精霊達は見る間に弱々しい様子になってゆく。
「なんだ?何してやがる?」
ジャイルズは心配そうに呟いた。
「精霊の力を吸い出して魔法を使うんだ!」
「魔法は本来、そんなことして使うもんじゃない」
精霊達がジャイルズに教えると、ジャイルズは怒りを示して枯草鋼の剣に手をかけた。
「やめろ!精霊達を解放しろ!」
「ふん、使いこなせもせぬ癖に、砂漠の精霊剣など振り回してもな」
魔女は鼻で嗤う。
「うるせぇ」
ジャイルズはまだ、人を斬ったことがない。殺したいとも思わない。どうやら、枯草鋼の剣にはなにか秘密の力があるようだ。しかしそれを調べる時間もない。
魔女を殺さずに無力化する方法が分からず、ジャイルズはただ悔しそうに睨みつける。気は逸るものの、なすすべもなく、魔女に集まる精霊達の光が膨らむのを眺めていた。
「宝の持ち腐れだな」
魔女は嘲笑いながら、鋭く尖った光のナイフを次々と投げつけた。ジャイルズは剣を抜き、光のナイフを全て弾き飛ばす。弾けば光は森の空気に霧散した。
残念ながら、精霊達には戻って行かない。力を吸われた多くの精霊がバタバタと地に倒れ、いく人かは消えてしまった。
山と森の精霊達が、一斉に魔女へと群がった。魔女は名付けの秘術で縛ろうとする。
「何故だ?何故効かぬ?」
魔女は苛立つ。精霊達は、一向に縛られる様子がなかったのだ。
「秘術も使わぬ名付けなど無効な筈だ!」
叫び狼狽える魔女を、精霊達が取り押さえる。
精霊達は、皆で協力して魔女のマントを引き剥がす。マントには魔法や刃を弾く力が込められていたらしい。マントの下は、砂漠の人とは思えない露出の多い服装だった。
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