282 魔女の村に暮らす人々
言葉にして他人に話すことによって、ヴァレリアは急に現実と向き合ってしまった。みなしごになった10歳の童が、ひとり薬師としての役目を続けているのである。気持ちが張り詰めていた間には、ただ目の前のことをこなしてきたのだろう。
カーラとケニスという多少変わった精霊の類縁と話すことができて、ヴァレリアはようやく我に返ったのだ。先祖の研究を引き継いだものの、童女ひとりでは思うような進展はない。ヴァレリアは無力感に打ちひしがれたように、元気なく肩を落とす。
「精霊たちはなんか知らないのか?」
ケニスは聞いてみた。
「その灌木にも精霊はいるんだけど、なんだか苦しそうでお話できないのよ」
「砂漠の魔女と関係がありそうだな」
ケニスはオルデンを見上げる。
「行ってみるか」
オルデンが言うと、カーラのランタンが瞬いた。
「そうね」
「ヴァレリア、場所は知ってるの?案内して貰える?」
「道は知ってるわ。村の真ん中なんだけど、ちょっと分かりづらいのよ」
「真ん中なのに?」
「ついてらっしゃいな」
ヴァレリアはこましゃくれた顔で背筋を伸ばす。回し終わった水の器を受け取り水瓶に浮かべると、縁に腰掛けている薬草に宿った露の精霊に軽く微笑みかけた。
露の精霊は、てっぺんにつけた小さな水の葉っぱの緑を濃くしてフルフルと揺する。
「あれ?なんか元気が出た」
「そうだな。ありがとな」
ケニスとオルデンは感謝を表してにっこり笑った。
「目がスッキリした気がする」
サルマンのことばには、3人が驚く。
彼には、普通の魔法や精霊の力が効かないはずだ。ヴァレリアは満面の笑みで解説をした。
「薬だからよ。呪いにも少し効くって言ったでしょう?」
「魔法が全く効かなくても、呪いにはかかるのか?」
オルデンにも初耳の情報である。精霊の薬が効いたことよりも、サルマンが魔女の呪いに影響を受けていたことの方が重要だった。
「砂漠の魔女が出してる力は、すごく濃いからじゃないかな」
ヴァレリアは推察する。
「ここには魔法を使えない人も精霊が見えない人もいないから、よく分かんないけど」
「なあ、この村の連中ら、なんでこんな危険な所に住んでんだよ?」
「砂漠の魔女はすごい魔法使いだったから、魔女が生まれたっていうこの村に集まってくんのよ」
「ヴァレリアの先祖もなの?」
不用心に質問するカーラの腕を、ケニスはやんわりと掴む。だが、ヴァレリアは平気な顔をして返答をした。
「違う。魔女が生まれるより前からこの村はあって、魔女よりも前から、精霊から教わった文字を物に書いて目印にしてきたのよ」
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