28 精霊龍と砂漠の魔女
ジャイルズは、賢い龍を訪ねるうちに剣技も体術も誰にも追いつけない高みにまで昇り詰めてしまった。マーレニカはエステンデルス村がルフルーヴの再建の為に攻め込んでくるのではないかと警戒をし始めた。
警戒したのはマーレニカだけではなかった。マーレニカ村民がたまに探りを入れにくる他に、山では見かけない精霊がやってくるようになったのだ。
「あんたか?龍殺しの癖に龍と友情を結んだとかいう人間は」
ある日、エステンデルス村でもマーレニカ村でも見たことがない服装をした娘がやってきた。口を布で覆い、フード付きの長いマントですっぽりと身を包んでいる。声を出さなければ、若い娘だとは解らなかっただろう。
「龍殺しは偶然なんだよ」
ジャイルズはもう何度繰り返したか解らない説明を始める。賢い龍もうんざりしたように炎を吐いた。炎は人喰いの白い龍とジャイルズの姿を作る。そのままジャイルズの龍退治の様子を炎の芝居で見せるのだった。
ここまではいつものことだった。しかし、炎の芝居がジャイルズと賢い龍の出会いに差し掛かった時、龍を象る炎が虹色に輝き出した。炎は見る間に大きくなった。
「おい、一体何が起こっているんだ?」
ジャイルズひとりが慌てふためく。奇妙な服装をした娘は平然と見ている。賢い龍も落ち着いていた。
やがて炎は、虹色の火炎を纏った赤い龍に変化した。
「ほう。龍の精霊が生まれたか」
娘は龍の姿に変わった炎に話しかける。
「お前を精霊龍と名付けよう」
娘の言葉に、ジャイルズは呆気にとられ、賢い龍は不快感を表した。
「人の子よ、マナー違反が過ぎるのではないか」
「何をいう。精霊文字も読めぬ輩が名付けを出来ようはずもあるまい?」
「私はジャイルズから名を貰ったぞ」
「ふん。正式な名付けではないな」
賢い龍とジャイルズは、ますます不機嫌になった。
「ゆくぞ、精霊龍よ。棲家を定めるのだ」
奇妙な服装の娘は、勝手に炎の龍を従えて立ち去ってしまった。
「忌々しい砂漠の魔女め」
賢い龍は歯噛みする。
「魔女ってなんだ?」
ジャイルズは訊く。
「砂漠に棲む魔法使いの中には、親しくもないのに邪悪な道具で精霊の姿を暴き、精霊を名前で縛りつける、秘術と言われる卑怯な技を使う奴がいるのだ」
「そいつが魔女か。してやられたな」
「魔女を倒せば名前の呪縛は解ける」
それを聞いたジャイルズは勇んで声を上げた。
「すぐに追いかけようぜ!」
「あやつは私の炎から生まれたからな。あやつを縛る力が私にも影響していて反撃出来ない」
「そんな」
「ジャイルズよ、山の精霊たちを集めて魔女を倒してはくれぬか」
「俺に出来るかなあ」
「縛らない名付けは、みな羨ましがっておるぞ」
賢い龍の言葉を裏付けるかのように、山の精霊達がジャイルズの周りに集まってきた。
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