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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
278/311

278 水の匂いがする村

 魔女の気配を辿り、一行は南の砂漠を進んだ。2日ほど砂ばかりを眺めた後で、砂丘の向こうに集落を見つけた。昼過ぎからの砂嵐をものともせず、淡々と直進していた。砂の盛り上がりをスルスルと降り切った所で、その村は突然目に入った。頂上からも、降りる途中も、砂嵐で視界が悪かったということもある。だが、それだけでは説明がつかないほど唐突に現れた。


「目眩しか」

「魔女の心臓がありそうよ」


 カーラは青い顔をしている。ケニスは、カーラの手を取り肩を抱えて支えていた。


「ずいぶんと水がありそうじゃねえか?」


 オルデンが目を細める。


「精霊を拘束して水を得ているんだわ!」


 カーラが憤る。精霊の力を感じ取ったのだ。



「で、どうすんだ?まさか正面から入ってくのか?」

「心配すんな、サルマン。一回りして一旦退くさ」

「その一回りだって危ねぇだろ」

「ヤバそうなら逃げるさ」

「カーラきつそうだぜ」

「無理なら言うわよ」


 ケニスは黙って歩を進める。片手はしっかりとカーラと結び合っていた。



「オルデン、ランタンをお願いするわ」

「カーラ、いい考えだと思うよ」


 村外れの建物や灌木が輪郭をはっきりと現す頃、カーラは藍色のランタンを差し出した。ケニスも後押しする。


「純粋な人間で、魔法の力が強いオルデンなら、デロンの籠を守れると思うの」

「俺じゃ精霊の血が入ってるから。邪法に捕まるかもしれないだろ?」

「確かに、もしもカーラが捕まった時、籠を壊されたら取り返しがつかねぇな」

「うん。いざって時には籠を持って一旦逃げて」

「分かったよ。それで安心すんなら預かっとかぁ」


 オルデンはカーラのランタンを受け取ると、器用に腰ベルトへと括り付けた。



 話しながら村の外周にそって歩く。屋根の円い日干しレンガの建物は、窓が小さく数も少ない。長方形にくり抜いた窓は、高い所にひとつだけ。煙抜きの穴なのだろう。こちらからも中かの様子は見えないが、中からこちらも覗けないようだ。


 精霊を捉えてふんだんに生み出している水の匂いが、湿り気を帯びた風に乗って漂っていた。サルマンは魔法が使えないので、皆に教えられなければオアシスなのかと思っただろう。



「旅の人?」


 家と家の間に立って洗濯物を取り込んでいた童女が、ケニスたちに声をかけてきた。砂よけに被った布は、鮮やかな青と黄色のチェックだ。青一色の丈長の上衣から、ゆったりした筒状の白いズボンが覗いている。足元はフェルトのブーツだった。黒地に青で、可愛らしい小鳥の毛糸刺繍が施されている。


「うん」


 警戒して眉間に縦皺を寄せる童女に、ケニスは爽やかな笑顔で答えた。カーラは少し気に入らない顔をした。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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