277 魔女の元へ
ヴォーラを無事に受け取ったケニスたちは、そのまま魔女の心臓を探しに出かけることにした。
「おい、闇雲に出ていったって」
火口箱の精霊がボッと細い火柱を上げる。
「闇雲じゃないわよ。引っ張られる方へ行ってやるのよ」
カーラは怒ったように眼を吊り上げる。
「なあ、カーラ。そいつぁノルデネリエを幸せに導く道ってやつなのか?」
鍛冶屋が気遣わしそうに聞いて来た。
「そうよ。カンテラの光は魔女の力が濃い方を示しているわ」
「鍛冶屋さん、きっと砂漠を解放するからね」
「ケニー、本当に大丈夫なのかよ?」
「心配いらないのよ、鍛冶屋さん」
カーラが虹色の眉を吊り上げる。
「そう言ったって、カーラとケニーは精霊だろう?」
「俺はちょっぴり精霊、たくさん人間だから、何ともないんだぜ!」
「何ともは言い過ぎだがな」
オルデンが茶々を入れる。ケニスは既に、精霊の部分を押さえ込む術を身につけたのだ。大人たちはすっかり安心している。サルマンも微かに眼を細めた。
「じゃあな、鍛冶屋さん。ヴォーラを丈夫にしてくれて、本当にありがとう」
ヴォーラも嬉しそうに白く輝く。
「ったく、ヤバそうならすぐに戻って来いよ?」
「心配しなさんなって。ケニーもカーラも、この2年でだいぶ逃げ足が速くなったんだぜ」
「逃げ足?」
鍛冶屋は狐につままれたような顔をした。
「逃げるに勝る手はねぇんだぜ」
オルデンはニタリと腕を組む。泥棒稼業で身につけた隠れ身と逃走術は、休むことなく子供達に伝授して来た。
「生きてりゃ、なんとかなるもんさ」
「そりゃまあ、そうだが」
鍛冶屋は何となく機嫌が悪くなる。自分も、危なければさっさと逃げ帰るように、という意味のことを言っていたのだが。
「魔女の呪いだってな。無理にケニーが消さなくたっていいんだ」
「俺がやるよ?」
ケニスは不服そうにオルデンを見下ろした。森から砂漠に来る間に、いつしか養い親の背丈を追い越していたのだ。
「その意気や良し。だがな」
サルマンが珍しく意見した。
「引き際も肝心だぞ」
「分かってるさ」
「ヴォーラも戻って来たしね」
ケニスとカーラは自信有り気に胸を張る。
「じゃあな、もう行くぜ」
オルデンが鍛冶屋の肩をポンと叩いた。
「無理はすんなよ」
ヒョイと顔を出したアルラハブが言った。
「シャキアが泣くからな」
オルデンは苦笑いで応える。
ケニスたちは、魔法で身の回りに壁を作って遠ざかる。万が一魔法が使えない時に備えて、全身を布で保護するのも忘れてはいなかった。サルマンも魔法の恩恵に預かっている。本人には魔法が効かないので、オルデンは、靴や洋服に砂や熱を防ぐ魔法をかけたのだ。
「全く、砂漠だろうが氷の海だろうが四六時中動こうなんて、気がしれねぇぜ」
鍛冶屋は憎まれ口で送り出すと、バタンとドアを閉めた。
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