276 道中
カーラが顔を曇らせた。虹色の火の粉がパチパチと髪の毛の上で弾ける。最近は多少抑えられるようになったのだ。そこらじゅうに撒き散らして焦げ目を作るのは、もう昔の話だった。
「砂漠の魔女はそのうち、心臓のままでも動き回れるようになるかも知れないわ」
「弱点を晒しながらは動かないだろう」
オルデンは、楽観的だ。
「砂漠の魔女は、ギィと違って身体を捨てたからね」
ケニスも同じ考えだった。
「自分が動く必要はねぇんだろうぜ」
オルデンは推察する。
「魔女の手下や捕まえた精霊を使って、邪法の勢力を伸ばしてるのかしら」
「その通りだ」
「砂漠の外までは直接魔法を放てなくなっても構わないんだろうね」
「けど、それ、ギィより簡単に勝てそうじゃない?」
カーラの表情が明るくなった。
「心臓を見つけて燃やしたら終わりよね?」
「うん。心臓だって、ギィみたいな小細工はしてないんじゃないかな」
「単純で助かるわね」
「その分、警護は手厚いだろうぜ」
サルマンが眉を寄せた。
「なあ、ギィって奴は砂漠の魔女の仲間なんだろ」
「そうだね」
「魔女の心臓を見つける時に邪魔して来るんじゃねぇか?」
「それを狙ってんだ」
「え?ケニー、そうだったのか?」
ケニスの余裕にサルマンは驚く。
「言ったろ?ギィは放っておいても勝手に襲って来るだろうって」
「一度に2人を相手にする気か」
硬い声を出すサルマンに、ケニスは歯を見せてニッと笑う。
「その方が効率的だろ?」
「きつくねぇか?」
悪鬼との戦いでギィの邪法に触れた記憶が、サルマンの心に陰を落とす。
「邪法の連中は、魔法や精霊の力を吸い取る道具を使うんだろ?」
ハッサンもそれで窮地に立たされた。
「俺は生まれつき運はいいんだぜ!」
ケニスは自信満々である。カーラは目を輝かせてケニスの腕に抱きついた。ケニスはサッとキスをする。
「ケニーは、ヴォーラに認められた継承者ですものね」
「そうさ。ご先祖のジャイルズが拾って投げたヴォーラが、ルフルーヴを荒らした人喰い龍の急所に刺さったように、運は俺に味方すると思うんだ」
「運任せだけじゃ危ねぇけど、ケニーは魔法なしの鍛錬もしてるからな」
ハッサンから習ったのは精霊剣の使い方だ。ハッサンは曲刀遣いだった。ヴォーラは直剣である。剣そのものの扱いは、ハッサンが教えることは出来なかった。だが、歩法や体捌きはしっかりと身につけていた。
「それもそうだな。両方出来るのは強ぇな」
「へへっ、だろ?」
ケニスはキラリと虹色の瞳を光らせた。
「調子に乗るなよ?ケニー」
「乗らないわよ、オルデン。ケニーはちゃんと分かってるんだから」
「ありがとうカーラ」
2人は嬉しそうに見つめ合い、大人たちは空を見上げた。
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