274 魔女の信奉者
シャキアがオアシスにオルデンの面影を求めていた頃、精霊大陸では当のオルデンが干した薬草を取り込んでいた。オルデンやサルマンと連れ立って洞窟に入ったケニスは、何気ない口調でエステンデルスの噂話を伝えた。
「今日、バリーとコンラッドが来てたよ」
「ほう、相変わらず情に厚い2人だな」
「うん。いい人たちだよね」
ケニスはにこりと頷いた。ハッサンの死を乗り越えて、笑顔が戻ったケニスであった。
「エステンデルスにも、近々魔法部隊ができるんだって。精霊の友騎士団て名前に決まったらしいよ」
「部隊どころか、独立した騎士団じゃねぇか」
サルマンが珍しく食いついた。ここにいる他のメンバーは、国や組織とは無関係に生きて来た。因縁はあっても、国の制度や組織のしがらみには組み込まれずに過ごしているのだ。
バリー達の騎馬槍隊がエステンデルス騎兵団の一部であることは、なんとなく理解している。だが、正直なところ、新設団体が隊だろうが団だろうが、それどころか国であろうとも、違いはよくわからないのであった。
「すごいことなの?」
ケニスが疑問を口に上らせる。
「魔法使いたちの実力が認められて、信頼もされてるってことさ」
サルマンが説明した。
「あんなに嫌ってたのに?」
「現実を見て考え直したんだろ」
ケニスの疑問には、オルデンが答えた。
「たった2年でそこまで来たのね」
「あの日を知らない奴らは、まだ魔法使いを疑ってんだろうけどな」
オルデンは、人間の偏見がそう簡単には変化しないことを知っている。オルデン自身、長いこと人違いでつけ狙われているままだ。
「一部の連中だけでも本当のことを解ってくれて、良かったじゃねえか」
「だよな。流石に目の当たりにした連中は否定もしねぇだろうよ」
オルデンの見解に、サルマンが同意した。
「そういえば、あの呪い歌のおばさん、いなくなっちゃったんだって」
2人の槍騎兵は精霊が見えるので、隠れ里訪問隊に抜擢されたという。隠れ里訪問隊は、今までの誤解と差別を詫びて、今後の交流を求める友好使節だ。隠れ里がエステンデルス庇護下の自治区になったのも、この訪問隊の交渉が実ったからである。
バリーとコンラッドは、エステンデルス騎馬槍隊に所属したまま、訪問隊にも参加していた。精霊を介さなければ、隠れ里の民と会うことすら出来ないからだ。そして、1人でも多く精霊の友を連れていれば、里や精霊たちの警戒もそれだけ薄れる。
「2人があの歌のこと、里で聞いてくれたんだけど、誰も歌を覚えてなかったんだ」
「歌ってたおばさんのことも、綺麗に忘れちゃってたのよ」
「精霊もおばさんのことを忘れてるのか?」
オルデンが不審がる。
「ルフルーヴ城跡の精霊たちも、一緒にいなくなったのよ」
「おい、そりゃあ」
「バリーたちは、魔女の信奉者だったんだろう、って言ってたわ」
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続きます




