表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
270/311

270 魔女の誤算

 森の洞窟に戻ったケニスたちは、知らせを待ちながら精霊たちとの交流を続けた。国境(くにざかい)の森は、沖風の精霊が濁って吹き飛ばしたことで、だいぶ狭くなっていた。


 ノルデネリエ側の森が浅くなり、抉れた地面には既に新しい草花が生えていた。季節は巡り、冷たい冬を二度超えた。2年の時があっという間に過ぎ、森の緑が鮮やかな花々で飾られる春が来た。獣たちには仔が生まれ、ミツバチは忙しく蜜を集めていた。


 バイカモが咲くにはまだ早く、川床で緑の葉が寄り集まって流れに身を任せていた。小魚は茎の間を縫って遊び、ケニスは幼い日を懐かしみながら岸辺に腰を下ろしていた。隣では、カーラが指先を水に戯れさせていた。



「長閑ですなあ」

「心が洗われるようです」


 川辺に生える老木に馬をつなぎ、ふたりの槍騎兵がケニスたちに話しかける。エステンデルス騎馬槍隊員、老兵バリーと中年コンラッドだ。ふたりは、墓参りに来ていた。森の精霊たちからハッサンの死を知らされていたのだ。


 ルフルーヴ川の(えき)と名付けられたあの日の戦いは、エステンデルス騎兵団の勝利に終わったそうだ。その戦いがきっかけとなり、エステンデルスからは魔法や精霊への偏見が消えて行った。


 バリーとコンラッドも魔法を隠す必要がなくなった。恩義を感じて度々森を訪ねてくれる。精霊の友である2人の槍騎兵は、ケニスたちの洞窟も知っていた。



「ノルデネリエも最近は動かないんでしょ?」


 カーラがバリーとコンラッドを見上げて言った。


「左様。油断なく備えはしとりますがな」


 バリーが答えた。


 精霊たちの知らせによれば、ギィはルイズの肉体をうまく扱えていないらしい。ルイズの肉体が子供であるため、予想以上に消耗が激しいのだ。しかし、ルイズは天才であったので、肉体に強化の邪法を埋めていた。それで、早々に身体を滅ぼしてケニスを狙い直すことも出来ないようなのだった。


「魔女の心臓は如何ですかな?」


 コンラッドが警戒心を滲ませる。砂漠の魔女が呪いを広めている以上、森も侵食される可能性を考えているのだ。


「森はまだ大丈夫よ」

「魔女の奴は、長い時間をかけて、肉体を捨てて純粋な力になろうとしてるんだと思う」


 ケニスは、この2年で集めた情報から仮説を立てていた。


「でも、魔女の核としての心臓からは、まだ逃れられないでいるのよ。もしかしたら、心臓を隠した砂漠から力を外に出すことも出来ないのかも知れないわ」


 魔女も自分の邪法に縛られている。人の形を捨てようとして、却って精霊に近くなってしまった。精霊を縛る邪法の応用なので、その道具に使った自らの心臓がある場所に囚われたのだと、カーラは推察していた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ