27 龍と農民
ルフルーヴ王国は川沿いの沃野に国土を持っていたが、城は小さく村は少なかった。川を臨む小高い丘の城が焼け落ちた時、付近の村は草原ごと焼けてしまった。城から少し離れて森がある。黒々とした森の付近に、貧しい農村があった。
それが、ジャイルズの故郷エステンデルスである。国土が焼けて国中から避難民が来たため、人口は突然倍になった。王族は残念ながら全滅し、生き残った役人も数人を数えるばかり。
ジャイルズの村では高齢の村長が生き残ったが、働ける世代は城の応援に駆り出されて殆ど死んでしまった。
「そんなわけでよ、次の村長どころか、なんだか知らねぇけど国の代表やれとか役人の生き残り連中に押し付けられてさ」
「『龍殺し』なら申し分ないであろ」
生き残り達にとっては、恐ろしい人喰いの白い龍を退治した大英雄だ。王様になって欲しいのも頷ける。
「俺、ただの幸運な農民だからな。色々決めんのは別の奴等みてぇだ」
「城の再建が済んだら引っ越すのか?」
「さあなあ。城なんざ、どうやって建てんのか誰も知らねぇ」
「そりゃ大変だなあ」
「せいぜいみんなで狩の練習して、野営してる連中の家建てる協力するくらいしか出来ねぇな」
ジャイルズたちエステンデルス村民は農民である。城の生き残り達にも残念ながら建築の専門家はいないようだ。
「王族が全滅じゃ、国の再建も出来ないか。よその国に王家の血縁はいないのかね?」
「知らねぇ」
賢い龍は、それ以上ジャイルズに聞いても無駄だと判断した。ジャイルズ達は、王様の顔も知らないのだ。農作物の一部を村長に預け、村長のところに徴税役人が取りにくる。城との関わりはそれだけなのだ。
そこで、賢い龍は話題を元に戻した。
「しかし、それだけの人数の食べ物をジャイルズ1人に頼るんじゃなあ」
「まあ、みんな段々に練習はしてる。逆に俺も兵士に剣習ってる」
「へえ」
「けっこう面白いぜ」
「狩の役に立つのか?」
「そうでもないけどな。まあ、俺は弓が苦手だからよ」
「それにしちゃあ、私を狩る気満々だったが?」
賢い龍は、またからかい始める。
「ははっ、まあな。いけそうな気がしたんだよ」
「どれ、手合わせしてみるか?」
「いいぜ!今度模擬剣借りてくる!」
そうして龍殺しの英雄ジャイルズと、彼にパロルと名付けられた賢い龍の友情は始まった。特に隠しはしなかったので、ジャイルズの名声は西の漁村マーレニカにまで轟いた。
ある時、ジャイルズとの雑談をしながら賢い龍が何気なく炎を吐いた。小さな炎で小鳥や花を慰みに作って見せてくれたのだ。
「パロル、火を吹けたのかよ」
「知らなかったか?」
「初めて見たぜ」
「そうだったか」
「カッコイイなあ!」
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