268 剣の材料
ケニスから受け取った剣を、鍛冶屋は怪我人を見る医者のように調べてゆく。顔を近づけたり、小ぶりの槌で叩いてみたり。火口箱の精霊に軽く触れさせてみたりもした。
「龍を刺しても刃こぼれしなかったって剣がボロボロになるんだ。大昔の技術じゃ太刀打ち出来ねぇような、新しい邪法を使われたんだろ?」
ひと通り確かめた後、鍛冶屋は忌々しそうに吐き捨てた。
「あいつら、無理にたくさんの精霊から剣に力を吸い寄せてたんだ」
「多勢に無勢ってやつだな」
ケニスが辛そうに口を歪める。話を聞いた火口箱の精霊も悔しそうだ。
「そんな大掛かりの邪法に対抗する為にゃ、こっちも工夫しねぇとな」
鍛冶屋は顔を引き締めて立ち上がった。
鍛冶屋は棚をゴソゴソと調べていたが、程なく石の箱を持って戻って来た。
「火口箱、それに、本体。力を貸してくれるか?」
「へえ。とうとう挑むんだな?」
「本体でも良いけどよ。俺の名前はアルラハブだよ」
「アルラハブか。デロンの技を手伝ったんだろ?頼りにしてるぜ」
「おうよ。任しときな!」
話がついて、鍛冶屋は一行に箱の中身を見せる。
「空っぽ、じゃないのよね?」
「中に手をいれて触ってみな」
カーラとケニスは指先を箱の中に入れた。
2人がおっかなびっくり指の腹を何もない空間に進めると、何か冷たい物に触れた。ケニスとカーラはハッと顔を見合わせた。鍛冶屋がニヤニヤと笑う。
「それが幻影銅だ。精製しねぇと透明で見えねぇのさ」
「そしたら、鍛冶屋さん」
ケニスが真っ直ぐに鍛冶屋の顔を見た。
「もしかして、枯草合金を使ってくれるの?」
鍛冶屋は頷く。
「けど、枯草鋼の在庫がねぇから、ちょっくら探しに行って来らぁ」
「外は危ないから、俺は留守番だな」
火口箱の精霊がつまらなそうに身体を揺らした。
「滅多に採れねぇ鉱物だから、数年はかかるかもな」
鍛冶屋は悠長なことを言う。
「そんなに待ってたら、ルイズの肉体が耐えられなくなって、ギィがまた来るんじゃないの?」
カーラに咎められて、鍛冶屋は不機嫌になった。
「せっかちな精霊だな」
「ヴォーラ無しだと、ギィも魔女もキツいと思う。今来られたらまずい」
ケニスは冷静に説明した。鍛冶屋は益々不機嫌になる。
「んなこと言ったってよ、いつ採れるか分かんねぇよ」
「カーラのランタンで探したらどうだ?ケニーが幸せになる為なら、枯草鋼になる鉱石の在処を示してくれんじゃねえか?」
オルデンが思いつきを口にした。
「別のものが見つかるかもしれないわよ」
カーラのランタンは、イーリスの子どもたち、とりわけノルデネリエを、幸せな方へと導くものだ。探し物をするための道具ではない。カーラは懐疑的だ。
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