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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
267/311

267 魔女の力

 苦しそうにスカートを握りしめて、カーラは魔女の力に耐えている。美しい巻毛は目に痛いほどの虹色を放って、暴風に乱されたように膨れ上がった。


「なによ、なによこれ、なんて力なの?ギィなんて目じゃ無いわッ」


 カーラは眉間に皺を寄せ、必死で足を踏ん張った。


「カーラ!」


 ケニスの顔に生気が兆す。青褪めるカーラをしっかりと抱きとめて、龍殺しジャイルズの末裔は砂漠の彼方を睨んだ。炎が赤く全身から吹き出して、霧のような光の粒が勢いよく立ち昇る。ケニスに流れる精霊の血も反応しているのだろう。



 荒れ狂う魔法の風に緑の髪を乱すに任せながら、ケニスはキッパリと言った。


「行こう!」


 引き寄せられるなら、むしろ好都合だ。ケニスは、そのまま力の中心へと乗り込む気概を見せる。


「おい、ケニー。ヴォーラ直してからにしようぜ」


 邪悪な力の源へと駆け出すケニスの肩を、オルデンががっしりと掴む。


「ケニー、落ち着いてよ!」


 邪法の力にガタガタと震えるカーラにも諌められて、ケニスは思い直した。


「そうだった。ヴォーラを直して貰わなきゃ」


 その瞳には、強い意志の力が戻っていた。



 カーラとケニスは、なんとか魔女の邪法から逃れた。カーラはケニスに寄りかかって、よろよろと鍛冶屋の家に戻ってゆく。


「恐ろしい歌だったわね」

「探し物を見つけるなんて嘘で魔法使いたちに歌わせて、精霊たちを引き寄せて吸い取るんだね」

「そうやって砂漠の魔女は、心臓だけの癖して砂漠全体に自分の魔法を行き渡らせたのか」

「きっとそうよ。魔女の手下が噂を広めたに違いないわ」


 ケニスはカーラにぴたりと寄り添い、安心させるようにぎゅっと手を握った。



「迂闊に試すもんじゃあねえな」


 オルデンはばつが悪そうに顔をしかめた。少ない手掛かりに飛びついてしまった愚を反省したのである。


「魔女に関わることは、気をつけたほうが良さそうだね」

「ここは魔女の心臓があるところですものね」



 幸運剣ヴォーラは、枯草鋼の剣である。南の砂漠で生まれた精霊剣だ。この地方で編み出された製法で鍛えた剣なのだ。ケニスたちは、枯草鋼の扱いをデロンに教えたという鍛冶屋にヴォーラの修理を頼み込む。


「精霊は眠っているだけみてぇだな」


 鍛冶屋はヴォーラを調べながら言った。


「直るのね?」


 期待を込めて聞くカーラは、まだ怖そうにケニスの腕にしがみついている。ケニスは腕を掴むカーラの手を優しく握っていた。


「直すだけなら、削れた銘文を入れ直して刃を研ぐだけでも良さそうだが、まあ、せっかくだから丈夫にしてやるよ」

「それはありがたいな」


 ケニスはカーラを守るために、すっかり憎しみを克服したようだった。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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