267 魔女の力
苦しそうにスカートを握りしめて、カーラは魔女の力に耐えている。美しい巻毛は目に痛いほどの虹色を放って、暴風に乱されたように膨れ上がった。
「なによ、なによこれ、なんて力なの?ギィなんて目じゃ無いわッ」
カーラは眉間に皺を寄せ、必死で足を踏ん張った。
「カーラ!」
ケニスの顔に生気が兆す。青褪めるカーラをしっかりと抱きとめて、龍殺しジャイルズの末裔は砂漠の彼方を睨んだ。炎が赤く全身から吹き出して、霧のような光の粒が勢いよく立ち昇る。ケニスに流れる精霊の血も反応しているのだろう。
荒れ狂う魔法の風に緑の髪を乱すに任せながら、ケニスはキッパリと言った。
「行こう!」
引き寄せられるなら、むしろ好都合だ。ケニスは、そのまま力の中心へと乗り込む気概を見せる。
「おい、ケニー。ヴォーラ直してからにしようぜ」
邪悪な力の源へと駆け出すケニスの肩を、オルデンががっしりと掴む。
「ケニー、落ち着いてよ!」
邪法の力にガタガタと震えるカーラにも諌められて、ケニスは思い直した。
「そうだった。ヴォーラを直して貰わなきゃ」
その瞳には、強い意志の力が戻っていた。
カーラとケニスは、なんとか魔女の邪法から逃れた。カーラはケニスに寄りかかって、よろよろと鍛冶屋の家に戻ってゆく。
「恐ろしい歌だったわね」
「探し物を見つけるなんて嘘で魔法使いたちに歌わせて、精霊たちを引き寄せて吸い取るんだね」
「そうやって砂漠の魔女は、心臓だけの癖して砂漠全体に自分の魔法を行き渡らせたのか」
「きっとそうよ。魔女の手下が噂を広めたに違いないわ」
ケニスはカーラにぴたりと寄り添い、安心させるようにぎゅっと手を握った。
「迂闊に試すもんじゃあねえな」
オルデンはばつが悪そうに顔をしかめた。少ない手掛かりに飛びついてしまった愚を反省したのである。
「魔女に関わることは、気をつけたほうが良さそうだね」
「ここは魔女の心臓があるところですものね」
幸運剣ヴォーラは、枯草鋼の剣である。南の砂漠で生まれた精霊剣だ。この地方で編み出された製法で鍛えた剣なのだ。ケニスたちは、枯草鋼の扱いをデロンに教えたという鍛冶屋にヴォーラの修理を頼み込む。
「精霊は眠っているだけみてぇだな」
鍛冶屋はヴォーラを調べながら言った。
「直るのね?」
期待を込めて聞くカーラは、まだ怖そうにケニスの腕にしがみついている。ケニスは腕を掴むカーラの手を優しく握っていた。
「直すだけなら、削れた銘文を入れ直して刃を研ぐだけでも良さそうだが、まあ、せっかくだから丈夫にしてやるよ」
「それはありがたいな」
ケニスはカーラを守るために、すっかり憎しみを克服したようだった。
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