263 魔法鍛冶
鍛冶屋の裏から集落の外へと抜ける。砂漠を取り囲むように連なる南の岩山を遠くに臨み、影のない砂地が続いていた。オルデンは砂を魔法で操りドーム状の休憩所を作った。
「ケニー、カーラ、力は吸われてねえか?」
「吸われてるわね。ちょっとずつだけど」
カーラが不服そうに口を尖らせた。それから、ケニスの顔を覗き込む。
「どう?ケニー?引っ張られる感じはする?」
ぼんやりとカーラを見たケニスは、やや間をおいてから首を横に振る。反応があっただけでも嬉しいカーラは、ケニスの首に抱きついた。反射的に背中へと手を回したケニスの周りに、虹色の火の粉が舞い踊る。火の粉はカーラの喜びを表して星の形を作っていた。
「ケニーは大丈夫なのか。純粋な精霊にしか効かねぇ邪法なのかな」
「精霊の部分が今は眠っているからかも知れないわ」
カーラはケニスとくっついたまま答える。
「ケニー、心と一緒に精霊の力を隠しちゃってる」
「ケニー」
オルデンは驚嘆する。
「濁って暴走するのを抑えてんのか?」
「そうよ」
「ケニー、すげえぞ。凄え意思の力だ」
オルデンが手放しで褒めた。サルマンはケニスの背中を軽く叩く。
「将来が楽しみだな」
「ふふっ、サルマン、ケニーは素敵でしょう?」
「てえした男だよ」
サルマンは、14歳のケニスのことを1人前の男と認めた。オルデンは父親の顔になり、得意そうに頷いた。
槌音が止んだ。一行はまだ煙の残る窓辺へと戻る。陽は傾いて、夕餉の時間だ。
「鍛冶屋さん、ちょっといいかい」
オルデンが窓の中へと再び声をかけた。中にいる人は片付けを終えて、窓に近づいてきた。不審そうに眉を寄せている。
「俺たちは森から来たんだが、砂漠に集落があって驚いたんだ」
鍛冶屋は黙って立っている。
「何でまた、こんなとこに住んでんだい」
鍛冶屋はオルデンをじっと見る。目線をずらして、後ろに立つカーラ、ケニス、サルマンを順番に観察した。沈黙の時が流れる。風は静かに吹いていた。
沈む太陽が灰茶色の町を茜色に染めてゆく。鍛冶屋の金髪も銅のように彩られた。顎のしっかりした四角い顔立ちである。薄い緑色の瞳に夕陽が映ると、まるでイーリスの血を継ぐ者のようにゆらゆらと虹色が揺れた。
「表に回んな」
顎で方向を示すと、鍛冶屋は火床と呼ばれる作業場の奥へと去った。
家主の言うことに従って、一行は玄関口へと回る。灰色の蝶番で止められた重たい木の扉が開く。音が全くしない。ここにも魔法が使われていた。この集落は皆同じ造りの家である。鍛冶屋が魔法の金具を作っているのだろう。
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