262 魔法鍛冶のいる集落
サルマンは、南の果てに港がないと聞いて興味を示した。
「町はあんのか?」
「そもそも人が住んでねぇ」
「そりゃずいぶんと厳しい環境なんだな」
「ノルデネリエより北は氷で人が住めたもんじゃねえし、砂漠の南も岩しかねえんだぜ」
2人の会話を聞いて、カーラは益々不思議に思った。隊商も通らない砂漠の真ん中に、突然村がある。水をうんと遠くから引いて来てまで村を作ったのは何故なのか。
「それじゃ、ほんとになんで?普通の人間は、水を空気から取り出せないでしょ?でも水が無いと生きられないんでしょう?」
「怪しいよな」
オルデンが言った。
「砂漠の魔女と関係があるかも知れねぇぞ」
「気をつけましょ」
「とにかく行ってみるか」
「そうね。精霊がいないから、聞くわけにもいかないし」
集落は小さく、反対側の端まで見通せるほどだった。何処からかトンカンと陽気な槌音が聞こえて来る。ここには鍛冶屋があるようだ。
「あっちから煙が上がってんな」
オルデンが額に手をかざして見渡すと、白い煙がもくもくと立ち昇っていた。
「槌音もしてるし、鍛冶屋だろ」
何を作る鍛冶屋かは分からないが、一行は兎に角行ってみることにした。
「魔法鍛冶か。精霊もいないのにてぇしたもんだ」
四角い石造りの小住宅が並ぶ角を曲がると、道の突き当たりに鍛冶場を持つ家があった。裏手の窓からは煙が出ている。煙には魔法の気配がしたのだ。
「変よ」
カーラが不安そうな声でケニスに身を寄せた。ケニスは、生気のない眼でチラリとカーラを見やる。
「どうした、カーラ」
オルデンが気遣う。
「槌音以外、何も聞こえないわ」
通りに人影はない。生活音が漏れ聞こえることもなく、槌音以外は死んだように静まり返っていた。サルマンの眼は鋭く光っていた。
「鍛冶屋さん、いんのかい」
オルデンが裏手の窓に向かって声をかけた。槌音は止まず、返事はない。風を操り、オルデンは煙を吹き飛ばす。中に人影が見えた。やや小柄ながらにがっしりとした中年男が、無言で槌を振るっている。燃え盛る炎には、音がない。魔法の火なのだ。熱は外まで伝わってきた。
「仕事の邪魔しちゃいけねぇか」
オルデンは呟いて、窓を離れる。
「また後で来てみよう」
カーラは後に従いながらも、窓の中を振り返る。
「何を作ってるのかしら」
「さてな。魔法を使ってることしか分からねえ」
「武器では無さそうだが」
剛弓の遣い手であるサルマンが意見を述べた。
「何にせよ、後で来よう」
「そうだな」
オルデンが促し、サルマンも同意した。ケニスはカーラと手を繋ぎ、無表情でついてゆく。
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