261 心臓はどこにある
ハッサンが地下水道を連想した歌詞は、砂の知らない空の下と歌う。砂漠の地下深く、空を知らない砂たちの中に、砂漠の魔女は心臓を隠したのだろう。
「ハッサンが言ってた地下水道なのか、古代精霊文化の遺跡なのか、はたまた邪法の地下神殿か」
オルデンは可能性を数え上げた。
「邪法の気配が濃くなる方へ辿っていけば、見つかるんじゃない?」
カーラは能天気に言った。ケニスは無反応である。魂が抜けてしまったようなケニスに、生命力を取り戻したい。その一心で、カーラはケニスの手を握る。どこかにふらりと消えてしまいそうで、離すことは出来なかった。
「カーラのランタンは反応しねぇのか?」
「砂漠の魔女はイーリスの仇敵よ。濁ったら嫌だわ」
「それもそうか」
これまで確実に道を示してきたランタンである。それが使えないとなると、少し不便だった。ケニスにとっての幸せがどこにあるのか判断しづらくなりそうだ。
カーラ本人も、虹色の瞳を持つ子供たちが幸せになるためだけに存在する精霊である。だが、行くべき道を探すには、道具の力も必要だった。道具とカーラはどちらが欠けても完全な力を発揮できない。
精霊を伴わない旅は、オルデンにとって初めての経験だった。オルデンは、全ての精霊に愛される特殊な人間である。いつも、近く遠く精霊の気配に取り巻かれて生きてきた。生まれ落ちたその瞬間から、ずっと。
「なんだか物足りねぇな」
オルデンは呟いた。カーラは変則的な存続とはいえ精霊だし、ケニスにも精霊の血が混じる。精霊の気配がオルデンの身の回りから完全に消えてしまったわけではないのだが。
「なんてぇか、落ち着かねぇ」
しかし、魔法は相変わらず使い放題である。不自由はしなかった。そこは、邪法使いと根本的に異なるのだ。精霊が居なくても、オルデンは強い魔法を無尽蔵に使うことが出来るのだから。
一行は風や水を自在に操り、快適に砂漠を通過した。サルマンも魔法がある生活に慣れた頃、石造りの集落が見えてきた。
「オアシスじゃねえみたいだぜ?」
「お水、どうしてるのかしら」
オルデンとカーラが不思議がると、サルマンが予想をたてる。
「地下水道を作って、遠くの山から井戸まで水を引いてるのかもな」
「どえれぇ手間だな」
「どうしてそこまでして住むの?」
「幻影半島じゃ、隊商の通り路に水を引いて井戸を掘るから、水場に集落が出来て宿場町になることがある」
「精霊大陸の砂漠にゃ、隊商はいねえよ?」
サルマンが驚いて眉を吊り上げた。
「んっ?隊商がねぇのか?」
「南の果てにゃ岩山があって、その先は海だが港はねえ」
「そうなのか」
「そうなんだ」
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続きます




