26 エステンデルスの龍殺し
ジャイルズはその時の様子を思い出したのか、賢い龍と同じようにぶるっと身震いした。
「何がどうなったのか、実はよく覚えてねえんだ。目の前にこの剣がまた転がってて、咄嗟に拾ったんだ」
ジャイルズは再び剣を鞘に収める。
「人喰い龍の尻尾だの、道や壁から剥がれた石だのが目の前に来て、気がついたら切り刻んでて」
無我夢中で目の前に迫るものを弾き返そうとして、たまたま枯草鋼の不思議な剣を振り回したのだ。
「最後には、人喰い龍が死んでたのさ。もともと喉が切れてたし、万が一急所が他にあったとしても、偶然切ってたんだろうぜ」
「その剣の元の持ち主は探したのか?」
「一応はな。生き残りなんざたいしていねぇからよ。聞いて回ったよ」
元の持ち主は、剣を取り落としてしまったのかも知れない。
「鞘と帯は鍛冶屋に頼んで作ってもらった」
「そうか。ジャイルズは今でも村に住んでるのか?」
「まあな。城から逃げた連中も一緒になって、生き残りが村でなんとかやってる」
「それで、農民がなんでこんな山奥まで狩りに来た?」
賢い龍は、元々疑問に思っていたことをようやく尋いた。
「それがさ。城の連中、けっこう数がいんのよ」
「ほう。生き残りが多いのか?」
「城にいた数を考えるとだいぶ死んじまったけどな」
「そうか」
「そんで、焼け残った畑と川の魚じゃ食いもんが足りなくてよ」
城から飛んできた火の粉で草原が焼け、畑もかなり焼けてしまったらしい。
「交代で狩に出てんだけど、なかなか上手くいかねぇ」
「慣れるまでは難しかろう」
「まあな。俺のこと、みんなエステンデルスの龍殺しだなんて煽てやがって、当番増やされてんだけどな」
「なんだ、狩は押し付け合いか。押し付けられたのか」
龍はジャイルズを揶揄う。
「はあ、そんなとこだ。俺、毎回、何かしらは捕まえてくかんな」
「それは凄い。空手で帰ることがないのか」
「運がいいんだよ、ちっちぇ時からな」
「枯草鋼の剣まで拾ったくらいだ。それは大した強運の持ち主だぞ」
「ははっ、こうして爺さんにも会えたしな」
「なに?爺さん?私のことかね?」
賢い龍の機嫌が悪くなる。
「私は生まれて100年程度、ようやく鱗が生えそろった若造だぞ」
「へええー、たまげた。人間なら俺とたいして変わんねぇのかよ」
「そうだな」
「そしたら兄ンちゃん、名前ぇはあんのかい」
「ただ龍と呼ばれている」
「せっかくこうして話も出来たのになぁ。ただ龍じゃあ、ちょっとな」
「好きに呼べ。私は別に何でも構わないぞ」
龍は名前に興味が無さそうだった。
「そうかい?そしたら、兄ンちゃん喋るから、言葉でどうだい?」
「まあ、なんとでも呼べ」
賢い龍は、まんざらでも無さそうに少しだけ鼻を膨らませた。
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