255 邪法の精霊刀
同行していた間の小競り合いを経て、腕を買われたタリクとラヒムはノルデネリエ精霊派に雇われる。精霊が見えず魔法もないのに、海賊船の魔法使いとも互角に戦えるからだ。
雇われたとはいえ、魔法使いではない2人だ。魔法至上主義のノルデネリエでは差別される。だが、タリクは大金が貰えるので文句はない。ギィの政策で、対立を煽るため、タリクのような凄腕はいく人かわざと破格の待遇で雇われていたのだ。
それから四年の月日が過ぎた。ケニスがルフルーヴ城跡に飛ばされたとき、追手のなかにタリクとラヒムはいなかった。精霊を集めに来た邪法使いに同行して、国境の森に来ていたのだ。
ラヒムは、差別と殺戮が横行するノルデネリエから逃げようとして、機会を伺っていた。国境の森に入った今回の任務を好機と見て逃げ出したという。だが見つかり、怪我を負い森の奥へと逃れた。そして、ハッサンたちに発見されたと言うことだ。
話が終わり一息ついていると、枯れ葉や小枝を踏む音がした。人声も聞こえて来る。ハッサンとラヒムは顔を見合わせた。声には、タリクのものも混ざっていたのである。
ラヒムとハッサンは耳を側立てる。ケニスたちの力に対抗するには、タリクの腕でも精霊なしでは厳しい。そう考えた邪法使いたちは、タリクにひとつの提案をしていた。
邪法の道具を使えば、魔法の才能がなくても精霊が見えなくても、精霊剣を使えるという。タリクはその魅力に惹かれた。
「働きが上がれば、当然給金も上がるよな?」
タリクは抜け目なく聞く。
「魔法剣士はノルデネリエにも居なくなったからな。まあ、そのへんは、な」
精霊派が仄めかし、タリクは満足そうな息を漏らす。元々、護衛稼業は相場通りの護衛代を受け取っての契約である。条件の良い方に寝返るのは当然だ。まして精霊の棲む剣は貴重であり、相性の良い遣い手は更に稀少だ。タリクは特別感と法外な報酬への期待で良い気分であった。
邪法の石を受け取り、タリクは刀に精霊の力を纏わせる。力の実感に、ニタリと口角を上げた。
「悪くねぇ。で、もう一つは?」
「ガキとハゲを仕留めたらな」
「まあ、いいだろう」
そっとその場を離れようと、ハッサンはラヒムを助けて立ち上がる。ハッサンは風の魔法で音を散らして消そうとした。だが、邪法使いの魔法を吸い取る道具が近くに来ているためか、失敗してしまった。
「ほう。懐かしい顔じゃねえか」
「師匠」
タリクは、かつての弟子に曲刀を突きつける。その刃には毒々しい赤や紫が混じり合った光が絡み付いていた。
「試し切りにちょうどいい」
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