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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
254/311

254 精霊派とラヒム

 オルデンの招きに応じて洞窟へと薬草の精霊がやって来た。


「うわ、邪法の秘薬だ」


 眠る少年少女を眼にするなり、薬草の精霊は断じた。


「知ってんのか」


 オルデンが身を乗り出す。


「知ってる。たまに犠牲者が出る」

「やつら、精霊を弱らせてどうする気だ」

「強い精霊は、弱らせてから捕まえるんだ」

「くそ、姑息な手を使いやがって」


 オルデンは低く唸る。



 薄緑版の枯草の精霊とも言える薬草の精霊は、草束の体から一本葉を引き出した。オルデンの肩では、枯草の精霊が眠っていた。カーラやケニスすら眠らせる毒薬である。力を分けてくれるオルデンにくっついていても、対策を知らなかったので眠ってしまったのだ。


「解毒剤か?」


 ハッサンが期待を込めて薬草の精霊に聞く。


「違う。疲れをとる薬」

「それで治るのかよ」

「そうじゃない、ハッサン」

「そうじゃない?」

「俺が使うんだよ。俺が力を分けるからな」


 ルフルーヴ川の時と同じく、疲れ切った精霊にはオルデンが力を分けるようだ。しかし既に、助け出した精霊たちに大量の力を分けている。流石に心配した薬草の精霊が、オルデンに薬を差し出したのだ。



「まだ起きねぇなぁ」


 オルデンがケニスたちに手をかざして力を分けるが、なかなか目を覚まさない。そこへ、ヒューッと音を立てて梢渡りの精霊が入ってきた。


「ラヒムってやつ、起きた」

「オルデン、俺、ラヒム見て来るわ」

「おう。行ってやんな」


 オルデンは力を分けることに集中している。サルマンは半分無防備になったオルデンを護衛するつもりだ。黙って弓を掴んでいる。


「行って来る」


 ハッサンは、サダを腰に下げてラヒムの元へと向かった。



 ラヒムが寝ている薮に着くと、ハッサンは親友である兄弟弟子に声をかける。


「よ、ラヒム。起きたか」

「はは、ハッサン、相変わらず(かり)ぃ奴だぜ」

「痛むか」

(いて)ぇよ」


 ラヒムは弱々しく歯を剥き出す。


「ラヒム、てめえ、なんだってそんな大怪我して森ん中で転がってたんだよ」


 ハッサンの質問に、ラヒムはこの4年間の出来事を語った。



 ケニスが幻影半島へと渡ったころ、マーレニカ港の食堂で、タリクとラヒムはケニスたちの噂をしていた。そこへ精霊派がやってきて、タリクは情報を売った。


 タリクたちの雇主は拝金主義だ。精霊派をアルムヒートへと運ぶ事にした。アルムヒート港に着いた時、ケニスたちは既にオアシスにいた。そのことは分からなかったが、アルムヒートでの聞き込みでパリサに辿り着いた。


 ハッサンと客人が砂漠に出たきり帰らないというパリサとヤラ。精霊派は、自分たちが手に掛けるより前に砂漠で死んだのだろう、と結論付けた。そして春の風でマーレニカへ戻った。 


お読みくださりありがとうございます

続きます

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