254 精霊派とラヒム
オルデンの招きに応じて洞窟へと薬草の精霊がやって来た。
「うわ、邪法の秘薬だ」
眠る少年少女を眼にするなり、薬草の精霊は断じた。
「知ってんのか」
オルデンが身を乗り出す。
「知ってる。たまに犠牲者が出る」
「やつら、精霊を弱らせてどうする気だ」
「強い精霊は、弱らせてから捕まえるんだ」
「くそ、姑息な手を使いやがって」
オルデンは低く唸る。
薄緑版の枯草の精霊とも言える薬草の精霊は、草束の体から一本葉を引き出した。オルデンの肩では、枯草の精霊が眠っていた。カーラやケニスすら眠らせる毒薬である。力を分けてくれるオルデンにくっついていても、対策を知らなかったので眠ってしまったのだ。
「解毒剤か?」
ハッサンが期待を込めて薬草の精霊に聞く。
「違う。疲れをとる薬」
「それで治るのかよ」
「そうじゃない、ハッサン」
「そうじゃない?」
「俺が使うんだよ。俺が力を分けるからな」
ルフルーヴ川の時と同じく、疲れ切った精霊にはオルデンが力を分けるようだ。しかし既に、助け出した精霊たちに大量の力を分けている。流石に心配した薬草の精霊が、オルデンに薬を差し出したのだ。
「まだ起きねぇなぁ」
オルデンがケニスたちに手をかざして力を分けるが、なかなか目を覚まさない。そこへ、ヒューッと音を立てて梢渡りの精霊が入ってきた。
「ラヒムってやつ、起きた」
「オルデン、俺、ラヒム見て来るわ」
「おう。行ってやんな」
オルデンは力を分けることに集中している。サルマンは半分無防備になったオルデンを護衛するつもりだ。黙って弓を掴んでいる。
「行って来る」
ハッサンは、サダを腰に下げてラヒムの元へと向かった。
ラヒムが寝ている薮に着くと、ハッサンは親友である兄弟弟子に声をかける。
「よ、ラヒム。起きたか」
「はは、ハッサン、相変わらず軽ぃ奴だぜ」
「痛むか」
「痛ぇよ」
ラヒムは弱々しく歯を剥き出す。
「ラヒム、てめえ、なんだってそんな大怪我して森ん中で転がってたんだよ」
ハッサンの質問に、ラヒムはこの4年間の出来事を語った。
ケニスが幻影半島へと渡ったころ、マーレニカ港の食堂で、タリクとラヒムはケニスたちの噂をしていた。そこへ精霊派がやってきて、タリクは情報を売った。
タリクたちの雇主は拝金主義だ。精霊派をアルムヒートへと運ぶ事にした。アルムヒート港に着いた時、ケニスたちは既にオアシスにいた。そのことは分からなかったが、アルムヒートでの聞き込みでパリサに辿り着いた。
ハッサンと客人が砂漠に出たきり帰らないというパリサとヤラ。精霊派は、自分たちが手に掛けるより前に砂漠で死んだのだろう、と結論付けた。そして春の風でマーレニカへ戻った。
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