253 ラヒムとの再会
怪我人の靴を見て驚いたハッサンを、オルデンは反射的に見た。アルムヒートの靴は、ここ精霊半島ではマーレニカ港の船乗りにしか見かけない。
「幻影半島から来た奴か?ノルデネリエじゃなかったのか」
「まだ何とも言えねぇ」
「あっちにギィが行ったからなぁ。影響を受けて活性化した悪霊やら悪鬼やらに唆された連中かもな」
「それにしちゃ、早すぎるぜ」
なにせここ精霊大陸へと渡って来る為には、数ヶ月の船旅が必要なのだ。しかも、半年に一度吹くちょうど良い向きの風に乗って移動しなければ無理だ。逆さまの宮殿にギィが襲って来てから、まだ1月も経っていないではないか。
オルデンは魔法と精霊の力を借りて、あっという間に移動が出来る。だから、ギィの影響を受けた人たちがこちら側まで来ている筈がないことを失念していたのだ。
「あ、そうだったな。だからと言ってノルデネリエと関係がねえとも言い切れねぇよ」
「まあな。船乗りも商人も、こっちに渡ってノルデネリエと関わってることだってあるかもな」
「とにかく引き出してみようぜ」
2人は魔法を使って、灌木の茂みに埋もれていた若い男を引き出した。
ハッサンの顔から血の気が引いた。
「ラヒム!」
血だらけの怪我人は、ハッサンの兄弟弟子ラヒムであった。眼は固く閉じ、手足はだらんと伸びて横たわっていた。
「微かだが息はある」
「血の跡を消して、洞窟に運ぶか?」
「事情は解んねぇぜ?」
ハッサンは慎重だった。
「万が一ノルデネリエに組みしてたらやべぇ」
「一理あるな」
「血の跡は消すにしても、怪我はここでなんとかしよう」
「それは任せろ」
オルデンは血止めの魔法をかけ、ラヒムの服を破いて傷口を縛る。
「とりあえずはこれで良い」
「傷口を塞ぐ魔法はねぇのか?」
「あんまり急いで直すと、寿命が縮まるんだよ」
ハッサンは強張った顔で頷いた。
「あとは様子見か」
「梢渡り、ラヒムの目が覚めたら知らせてくれ」
「引き受けた!」
緑色のムササビは、元気よく請け負った。
梢渡りの精霊にラヒムを託して、2人は洞窟に戻った。ケニスもカーラも眠りこけている。
「精霊たちは寝ているな」
オルデンは苦い顔を作った。
「精霊は分からねぇが、子供らはちっとも起きねぇ」
焚き火の番をしていたサルマンが言った。
「空気を入れ替えたら、起きてる精霊を呼ぶしかねぇ」
「それで起きんのか」
「試す価値はある」
オルデンは言うが早いか、魔法の風で洞窟内に残っていたお菓子の成分を吹き払う。その後で呼んだのは、国境の森に生える薬草の精霊だった。
お読みくださりありがとうございます
続きます




