252 藪に倒れていた怪我人
オルデンは、洞窟の近くに血だらけの人がいると聞いて慌てた。
「怪我してんのか」
「うん。動かない」
「話は出来んのか?」
「精霊を感じ取っちゃいるけど、見えてないし聞こえてないね」
訓練をすれば精霊と交流が出来るようになるタイプのようだ。残念ながら、今はまだ精霊が見えないらしい。
「仕方ねぇ、様子見に行くか」
オルデンは面倒臭そうに言った。
「寝ぐらの近くで死なれても寝覚めが悪ぃし、動けるようになって洞窟まで来られちゃ困るからな」
「そいつの仲間が探しに来るんじゃねえか?」
「あり得るな。梢渡り、仲間がいるか分かるか?」
「どうかな?」
梢渡りの風は、再び梢へと駆け上る。ザザアーと音がして、国境の森中をくまなく調べてまわる様子が分かった。
「追われてるみたいだよ。追手はノルデネリエの方から森に入って来たとこ」
しばらくして戻った梢渡りの精霊が告げる。オルデンは首を捻った。
「なんで追手だって思うんだ?」
「血の跡を確かめて、確実に息の根を止めてやる、って相談してたからだよ」
「血の跡が付いてんのかよ」
ハッサンが顔を顰める。
「そりゃ大怪我してるからね」
梢渡りの精霊が少し馬鹿にしたように答えた。
「それじゃあ、そいつの追手にも洞窟の近くまで来られちまうな」
「うん。嫌だよねえ」
「出来れば避けてぇ」
「けど、変なんだよ」
梢渡りの風は、恐ろしそうに周囲の草木を震わせた。
「変?」
オルデンが聞いた。
「うん。変なんだ。動かない人は怪我してるから、とりあえず放って置いたけど、森に入って来たばかりの連中は追い払おうとしたんだよ?」
「それで?」
「でも、森の力を使っても、外に押し出すことが出来なかったんだ」
何か強力な魔法を使っているのかもしれない。
「精霊を感じ取れないからじゃなくて、精霊も魔法も、力がふうっと消えちゃうんだよ」
「邪法か」
梢渡りは風なので、ハッサンにも話ができた。
「ああ、ハッサン。ノルデネリエの方から来たんじゃ、まず間違いなく邪法だろうぜ」
オルデンは額に皺を寄せて頷く。
「どうするよ?」
「とりあえず、怪我人のとこまで行ってみよう」
2人が梢渡りの後について森を行くと、川沿いの藪から細い血の筋が流れて来た。
「固まってねぇ」
オルデンは血の筋を辿りながら、ハッサンに話しかけた。
「この辺まで来てから時間は経ってなさそうだ」
「そうみてぇだな」
言ううちに、藪の陰に人間の足が伸びているのが目に飛び込む。
「アルムヒートあたりの靴だ」
尖って反り上がったつま先を見て、ハッサンが驚きの声を上げた。
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