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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
252/311

252 藪に倒れていた怪我人

 オルデンは、洞窟の近くに血だらけの人がいると聞いて慌てた。


「怪我してんのか」

「うん。動かない」

「話は出来んのか?」

「精霊を感じ取っちゃいるけど、見えてないし聞こえてないね」


 訓練をすれば精霊と交流が出来るようになるタイプのようだ。残念ながら、今はまだ精霊が見えないらしい。


「仕方ねぇ、様子見に行くか」


 オルデンは面倒臭そうに言った。



「寝ぐらの近くで死なれても寝覚めが悪ぃし、動けるようになって洞窟まで来られちゃ困るからな」

「そいつの仲間が探しに来るんじゃねえか?」

「あり得るな。梢渡り、仲間がいるか分かるか?」

「どうかな?」


 梢渡りの風は、再び梢へと駆け上る。ザザアーと音がして、国境の森中をくまなく調べてまわる様子が分かった。



「追われてるみたいだよ。追手はノルデネリエの方から森に入って来たとこ」


 しばらくして戻った梢渡りの精霊が告げる。オルデンは首を捻った。


「なんで追手だって思うんだ?」

「血の跡を確かめて、確実に息の根を止めてやる、って相談してたからだよ」

「血の跡が付いてんのかよ」


 ハッサンが顔を顰める。


「そりゃ大怪我してるからね」


 梢渡りの精霊が少し馬鹿にしたように答えた。



「それじゃあ、そいつの追手にも洞窟の近くまで来られちまうな」

「うん。嫌だよねえ」

「出来れば避けてぇ」

「けど、変なんだよ」


 梢渡りの風は、恐ろしそうに周囲の草木を震わせた。


「変?」


 オルデンが聞いた。


「うん。変なんだ。動かない人は怪我してるから、とりあえず放って置いたけど、森に入って来たばかりの連中は追い払おうとしたんだよ?」

「それで?」

「でも、森の力を使っても、外に押し出すことが出来なかったんだ」


 何か強力な魔法を使っているのかもしれない。


「精霊を感じ取れないからじゃなくて、精霊も魔法も、力がふうっと消えちゃうんだよ」

「邪法か」


 梢渡りは風なので、ハッサンにも話ができた。


「ああ、ハッサン。ノルデネリエの方から来たんじゃ、まず間違いなく邪法だろうぜ」


 オルデンは額に皺を寄せて頷く。


「どうするよ?」

「とりあえず、怪我人のとこまで行ってみよう」



 2人が梢渡りの後について森を行くと、川沿いの藪から細い血の筋が流れて来た。


「固まってねぇ」


 オルデンは血の筋を辿りながら、ハッサンに話しかけた。


「この辺まで来てから時間は経ってなさそうだ」

「そうみてぇだな」


 言ううちに、藪の陰に人間の足が伸びているのが目に飛び込む。


「アルムヒートあたりの靴だ」


 尖って反り上がったつま先を見て、ハッサンが驚きの声を上げた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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