25 枯草色の剣
幸運と偶然が重なって、ジャイルズたちは人喰い龍の元にやってきた。その白い巨大なトカゲを龍と呼ぶことは、城の兵士が教えてくれた。
龍は爪も口も赤くして、白い体は燃え盛る炎に照り映えていた。全身真っ白で、目玉だけが真っ黒だった。それはとても悍ましく、太陽の下にいてはならない気配がした。
「俺は夢中で龍に向かっていった。奴は俺なんか眼中になくて、手当たり次第に生き物を口に放り込んでいた」
ジャイルズはまず、持参した鍬を投げつけた。硬い鱗はそんな物は弾き飛ばす。そのあとは、落ちている物を何でもかんでも投げつけた。
周りの仲間も同じことをした。兵士達は武器庫に戻るから待っていろと言って、城の中心部へと戻って行った。緊急なので、農民にも槍やナイフを貸し出すつもりらしかった。
「俺たちが投げる物なんか、人喰い龍には屁でもねぇ。その間も辺りは火の海だし、城の中にある建物は崩れ落ちてくる」
仲間の何人かは、建物や木々が倒れてくる所に巻き込まれた。それでもジャイルズたちは、ひたすら物を投げ続けていた。
「本当に偶然だったんだ」
ジャイルズは、腰の剣を叩いてヂャランとならす。それは枯草色の不思議な剣身を持つ両刃の長剣だ。錆びているわけではない。
「こいつが落ちてた。多分喰われた奴が落としたんだろう」
賢い龍は、大きな頭を揺らしてゆっくりと頷く。
「枯草鋼だな。珍しいことだ」
「へええ、名前があんのかい」
「枯草鋼は南の砂漠にごく僅か眠る、取り扱いの難しい金属だ。砂漠の精霊の涙が固まった物らしいが、砂漠の連中は偏屈だからな、詳しくは解らん」
「ああ、材料の名前か。剣の名前かと思った」
「剣の名前なら、どこかに彫ってあるんじゃないか?」
賢い龍は、珍しい剣に興味津々だ。最早、人喰いの白い龍がどうなったのかは気にならないようだ。
ジャイルズは枯草鋼の剣を調べる。どうやら剣身に文字が刻まれているらしいのを発見した。
「読めねぇ」
「どれ、見せてみな」
「読めるかい?」
「いや。多分文字だとは思うが」
賢い龍と粗野な若者は、残念そうに剣身に彫られた銘らしきものを見つめる。
「はあ。それで、とにかくコイツを投げたんだよ」
ジャイルズは話を再開した。
「ほう」
「そしたらたまたま振り向いた龍の喉元にグッサリさ」
「暴れたのではないか?」
「ああ。凄い力で首を振って、剣を飛ばした。俺の力じゃ、先しか刺さらなかったんだろうな」
「よく巻き込まれなかったな。相当のたうち回ったろうに」
「そうなんだよ。傷口から血は噴き出すし、尻尾や羽をバタバタやるし」
それを聞いた賢い龍は、恐ろしそうに身を震わせた。
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