249 お土産のお菓子
火を通じて戦にも加わっていたカガリビだが、ここは生まれた場所である。ジャイルズがここで焚いた火から、カガリビは精霊の姿と力を得たのだ。
「やっぱりここが落ち着くよな!」
カガリビが嬉しそうに言った。オルデンの頬も緩む。
「そうだな」
「うん。我が家って感じだよね」
「落ち着くわね」
オルデンが理不尽な人違いから逃れて平穏を得たのもここだ。ケニスが拾われてすくすく育ったのもこの洞窟だ。カーラが見出されて人間の暮らしを学んだのも、やはりこの寝ぐらなのだった。
ハッサンとサルマンは、物珍しそうに洞窟内を見回した。古びた道具や多少の硬貨が散らばっている。壁際には、毎年置いていた「オルデンとケニスの石」がそのままに並んでいた。虹色の石は見つけられなかったので、代わりに白い石を「カーラの石」としたようだ。
「ハッサン師匠とサルマンの石も探して来なくちゃね!」
ケニスは血生臭い川船での戦いを忘れて、無邪気な声をあげた。洞窟に足を踏み入れて、穏やかだった森での日々がケニスの胸を満たしたのである。
「カーラ、隠れ里でもらったお菓子、炙って食べない?」
皆が焚き火を囲んで腰を下ろすと、ケニスが木の実を練って固めたお菓子を取り出した。砂漠の伝承を話した人が、母のような気遣いで餞別に渡してくれた物である。今のところ、渡された薬草のお世話にはなっていない。
薬草や丸薬とお菓子は、小袋の中で小分けの包みになっていた。包まれてはいるのだが、開かれた袋の口からは、薬草の香りが漂ってくる。
「ええ。炙ったら美味しそう」
カーラも同意して、2人は小さくて四角い板のようなお菓子を火にかざす。大人の親指ほどのそのお菓子は、暗い赤茶色をしていた。種子らしき黒い点が全体に散って、水玉模様を描いている。
華やかなお菓子ではない。だが、子供達にとっては貴重なおやつだ。アルムヒートやオアシスの街アルマディーナでは、干し果物やハチミツシロップにつけた揚げ菓子がご馳走だった。
揚げ菓子は、薄く平たい紐のように伸ばした練り粉を、クシャクシャと丸めて揚げたものだ。大人の男の拳ほどもある大きなお菓子であった。
軽みのある幻影ヤシの油を泳がせると、生成りのお菓子がやや膨らんで黄金色に変わる。魔法のようなショーだった。子供達のみならず、大人たちも眼を輝かせて見物する屋台なのだ。
熱々の揚げたてに、売り子のおじさんが蜂蜜をオアシスヤシのジュースで煮詰めたシロップに潜らせてくれる。お祝い事に欠かせないこのお菓子は、街中に幾つか屋台が出ている。何故か必ずおじさんが売っていた。
「オアシスでもお菓子、たべたわね」
「甘かったね」
「これも甘そうよ」
「おばさん、甘いわよって言ってたな」
「楽しみね」
2人はひそひそと睦まじくお菓子を火にかざした。
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