248 懐かしい洞窟
ケニスはカーラを放してヴォーラに集中した。虹色の眼を瞑ると、白い光が剣身から溢れてケニスの全身を包み込む。光の薄膜で覆われたケニスは、静寂の中で佇んでいた。
静かに瞼が上がる。両手で構えたヴォーラを大きく振り上げると、一呼吸置いて空を切り下げた。幸運の光は草の靡く平原へと駆け下る。
エステンデルス平原を突き進む騎兵団に、幸運がもたらされた。ノルデネリエ魔法船団の旗艦に騎馬で乗り込み団長を狙う、尖兵たちの槍先にも幸運が宿る。戦馬の蹄にも、人々の身体にも、白い光が降り注ぐ。
「サルマンの矢に幸運を載せたろ?」
ケニスは説明した。
「その方法を使ったんだ」
オルデンが施した守りの魔法と相乗効果を上げて、ケニスの分けた幸運が騎馬槍隊へと追い風を吹かせる。エステンデルス騎馬槍隊は勢いを得た。邪法の道具は首尾よく壊されているようだ。
解放された精霊たちは、オルデン目掛けて空へと昇る。
「アハハ!オルデン、精霊まみれー!」
精霊が見える人間にはちょっと気持ち悪いほどに、オルデンは精霊にたかられていた。
「デン、大丈夫なの?精霊に力をあげすぎたら、デンが倒れちゃうよ」
「なに、何てことねぇぜ、ケニー」
オルデンは涼しい顔だ。ハッサンは、改めてオルデンの規格外な力に驚嘆した。
「オルデン、本当に人間かよ?」
「ハッサン師匠!そういう言い方するなよ」
ケニスがいつになくハッサンを咎めるような物言いをする。
「なんだ?どうした?ケニー」
ハッサンが不思議そうな顔をした。
「化け物って言われたのよ。邪法の奴等に」
カーラが怒って火の粉を飛ばした。
「化け物ねぇ」
ハッサンは苦笑いだ。
「どの口が言うんだか。人の心を失った邪法使いどものくせになぁ」
ハッサンの評価は、ケニスの心を慰める。
「ほんとよ。ケニー、気にすることなんかないのよ!」
カーラがケニスの両手を取って力説する。
「そうだぞケニー。大事なのは、力の大きさじゃねぇ。使い方だ」
オルデンが諭せば、ハッサンとサルマンも励ました。
「オルデンの言う通りだ。ケニー、心を忘れんなよ?力に呑まれなきゃ大丈夫だぜ」
「魔法の事は分からねぇが、どんな力も諸刃の剣だからな」
ケニスは黙って頷いた。
残された精霊たちの心配も無くなり、ケニスたちは改めて砂漠を目指す。カーラのランタンが示す路を辿って、一行は国境の森に入った。暗くなる頃、オルデンの案内で辿り着いたのは、懐かしい寝ぐらの洞窟だ。
「今夜はここで休もう」
「へーえ、ここに住んでたのか」
「そうだよ、師匠」
「ヴォーラともここで会ったのよ」
焚き火を起こすとカガリビが飛び出して、歓迎の挨拶をした。
「よう、戻って来たな!」
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