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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
248/311

248 懐かしい洞窟

 ケニスはカーラを放してヴォーラに集中した。虹色の眼を瞑ると、白い光が剣身から溢れてケニスの全身を包み込む。光の薄膜で覆われたケニスは、静寂の中で佇んでいた。


 静かに瞼が上がる。両手で構えたヴォーラを大きく振り上げると、一呼吸置いて空を切り下げた。幸運の光は草の靡く平原へと駆け下る。


 エステンデルス平原を突き進む騎兵団に、幸運がもたらされた。ノルデネリエ魔法船団の旗艦(きかん)に騎馬で乗り込み団長を狙う、尖兵たちの槍先にも幸運が宿る。戦馬の蹄にも、人々の身体にも、白い光が降り注ぐ。



「サルマンの矢に幸運を載せたろ?」


 ケニスは説明した。


「その方法を使ったんだ」


 オルデンが施した守りの魔法と相乗効果を上げて、ケニスの分けた幸運が騎馬槍隊へと追い風を吹かせる。エステンデルス騎馬槍隊は勢いを得た。邪法の道具は首尾よく壊されているようだ。



 解放された精霊たちは、オルデン目掛けて空へと昇る。


「アハハ!オルデン、精霊まみれー!」


 精霊が見える人間にはちょっと気持ち悪いほどに、オルデンは精霊にたかられていた。


「デン、大丈夫なの?精霊に力をあげすぎたら、デンが倒れちゃうよ」

「なに、何てことねぇぜ、ケニー」


 オルデンは涼しい顔だ。ハッサンは、改めてオルデンの規格外な力に驚嘆した。


「オルデン、本当に人間かよ?」

「ハッサン師匠!そういう言い方するなよ」


 ケニスがいつになくハッサンを咎めるような物言いをする。


「なんだ?どうした?ケニー」


 ハッサンが不思議そうな顔をした。


「化け物って言われたのよ。邪法の奴等に」


 カーラが怒って火の粉を飛ばした。


「化け物ねぇ」


 ハッサンは苦笑いだ。


「どの口が言うんだか。人の心を失った邪法使いどものくせになぁ」


 ハッサンの評価は、ケニスの心を慰める。


「ほんとよ。ケニー、気にすることなんかないのよ!」


 カーラがケニスの両手を取って力説する。


「そうだぞケニー。大事なのは、力の大きさじゃねぇ。使い方だ」


 オルデンが諭せば、ハッサンとサルマンも励ました。


「オルデンの言う通りだ。ケニー、心を忘れんなよ?力に呑まれなきゃ大丈夫だぜ」

「魔法の事は分からねぇが、どんな力も諸刃の剣だからな」


 ケニスは黙って頷いた。



 残された精霊たちの心配も無くなり、ケニスたちは改めて砂漠を目指す。カーラのランタンが示す路を辿って、一行は国境(くにざかい)の森に入った。暗くなる頃、オルデンの案内で辿り着いたのは、懐かしい寝ぐらの洞窟だ。


「今夜はここで休もう」

「へーえ、ここに住んでたのか」

「そうだよ、師匠」

「ヴォーラともここで会ったのよ」


 焚き火を起こすとカガリビが飛び出して、歓迎の挨拶をした。


「よう、戻って来たな!」 


お読みくださりありがとうございます

続きます

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