244 草原の魔法船団
魔法船団は命令一下、水面から船を離す。ザバンと音高く船底は水から上がり、エステンデルス騎馬槍隊の並ぶ堤へと舳先を巡らせた。
「どうする?ケニー」
輝石を諦めてエステンデルス平原へと侵攻する船団から、ケニスとカーラは一旦離れる。
「新しく道具を作るのはやめたみたいだね」
「道具はあらかた壊したわよ」
「いや。船底の奴等は全く痛手を受けてないよ」
ケニスは上空から岸辺の様子を伺う。エステンデルス騎馬槍隊は、跳躍して一艘の船に雪崩れ込んだ。そのまま甲板を駆け抜けて、団長のいる船へと向かう。
「あれを狙ってたのか」
「あの人数で?無謀よね」
「オルデンや精霊たちが守ってるからいいけど」
サルマンの矢も、幸運と精霊の力を得て槍騎兵たちを守る。ハッサンは少し持ち直して、船に乗り込む準備をしているようだ。
「エステンデルスは、ノルデネリエ魔法船団と戦ったことあるのかしら」
カーラは、無策にも見えるエステンデルス騎馬槍隊の様子を訝しがる。ノルデネリエとエステンデルスの戦いには長い歴史があるのだ。ただ無謀なだけとは考え難い。
「だとしたら、攻略法を知ってるのかな?」
「精霊を解放すれば、だいぶ弱くなるんでしょうけどね」
「そうだね。ノルデネリエは武国じゃないし、魔法使いだって精霊から無理に力を奪って強くなってるだけだしさ」
突然現れた魔法船団を偵察に来た騎馬槍隊が、ケニスたちの奮闘を見て好機と見たのかも知れない。船団の魔法は見る間に弱くなっているのだから。
ケニスたちの働きで、邪法の被害に遭った精霊たちはかなり解放されていた。だが、ケニスの睨んだ通り、表に出ていない邪法使いたちはまだいる。囚われている精霊たちも中にいるのだ。
「もう一度、船に行こう」
「そうね。船の中にいる精霊たちを助けなくちゃ」
上空から全体の動きを眺めて、ケニスは決断した。カーラもケニスの意見に賛成だ。
「気をつけろよ」
オルデンの周りには、弱った精霊たちが次々と集まってくる。動くわけにいかなくなってしまったオルデンは、ケニスを気遣いつつも行かせるしかない。
「ハッサンは無理すんなよ」
地上へも言葉を送る。ハッサンもまた、船底の精霊たちを気にかけていたのだ。立ち上がって、草原の風に協力を頼もうとしている。
「無理はしねぇよ!待ってる奴が居るんでね」
ハッサンの言葉には余裕が感じられた。待つ人のいる兵士の生存率は高い。生還への執念が違うのだ。オルデンもサルマンも、安心してハッサンを見送った。
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