242 魔法船へ乗り込む
ハッサンとエステンデルスの槍騎兵が言葉を交わす間、空の上では、ケニスが奮闘していた。ヴォーラを使って幸運の力を加えた魔法で、絶え間なく邪法の道具を壊してゆく。相手も休みなく作ってくるので、気が抜けない。
「ハッサン、まだ本調子じゃなさそうだね」
「そうね。今動くのは危ないわよ」
「それにしても、騎馬槍隊ってのは、ずいぶんと無鉄砲な奴等だなあ」
「見たところ、20騎余りしかいないわね」
「あの人数で、ノルデネリエ魔法船団に正面から挑もうってのかよ」
オルデンが、エステンデルス騎馬槍隊を眺めて首を捻る。
ケニスは作業に慣れてきて、ハッサンの様子を伺いながら話もできるようになった。ルフルーヴ川の堤に並ぶエステンデルス騎馬槍隊は、相変わらず逃げもせず隠れもせずに棒立ちである。オルデンの頼みで水の精霊たちが壁を作って守るから無事なものの、見たところ本職の戦闘部隊とは思われない間抜けさだ。
「何か考えがあってのことなのかねぇ?」
「ノルデネリエとエステンデルスって、しょっちゅう戦争してるんでしょ?」
「そうだな。国境の森で、偵察隊が行き交ってただろ」
ケニスが森にいた間には、大きな戦いは起こらなかった。だが森を通る人々の中には、武装した小集団も見かけたのである。ケニスたちは森の奥で見つからないように過ごしていたので、ばったり出会う愚は犯さなかった。
かたや2国とも、偵察隊が目指すのは国境周辺と相手の国である。わざわざ森の奥へは来ない。それで、ヴォーラ探索隊が地底湖で精霊を縛ろうとした時まで、ケニスたちとの接触は起こらなかったのだ。
ギィはケニスの位置を把握している。だが、ルイズが呪いの力で血族を殺戮する前には、ギィにとってケニスは単なるスペアの器だった。特別探し出させる必要は無く、捨て置いていた。
「あの船団がノルデネリエの奴等だってこと、解ってるだろうにね」
「そうだよな、ケニー」
「何してるのかなあ」
「交渉しようとしてるって聞こえたけど」
カーラは岸辺の会話に聞き耳を立てる。
「お人好しだね」
カワナミが大笑いすると、空一面に水滴がキラキラと飛び散った。水は太陽の光を反射しながら船団へと落ちてゆく。ケニスはすかさずカワナミの水に幸運の力を送った。
船上にいるノルデネリエの邪法使いたちは、突然の光に幻惑されて思わず眼を瞑る。その隙を逃すケニスではなかった。スピードに乗って空を駆け下ると、船尾の網を切り裂いて回ったのである。カーラも後に付いてゆく。カーラの虹色の炎は、盗掘された輝石に絡まる魔法の網を燃やし尽くしてしまう。
「何だっ」
「何奴!」
「輝石が!」
「おい、網が」
魔法船団は俄かに騒がしくなった。
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